・・・釈迦の説いた教によれば、我々人間の霊魂は、その罪の軽重深浅に従い、あるいは小鳥となり、あるいは牛となり、あるいはまた樹木となるそうである。のみならず釈迦は生まれる時、彼の母を殺したと云う。釈迦の教の荒誕なのは勿論、釈迦の大悪もまた明白である・・・ 芥川竜之介 「おぎん」
・・・当時木村と花田は関根名人引退後の名人位獲得戦の首位と二位を占めていたから、この二人が坂田に負けると、名人位の鼎の軽重が問われる。それに東京棋師の面目も賭けられている、負けられぬ対局であったが、坂田にとっても十六年の沈黙の意味と「坂田将棋」の・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・客観的事実の軽重にしたがって、零細な金を義捐してもその役立つ反応はわからない。一方は子どものいたいけな指が守れるのが直ちに見える。この場合のような選択について、有名なシルレルとカントとの論争が起こるのだ。道徳的義務の意識からでなく、活々とし・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・のことが気にかかり東京の様子や変遷を知り進歩に遅れまいと、これつとめるのであるが、そのうちに田舎の自分に直接関係のある生活に心をひかれ、自分自身の生活の中に這入りこんで、麦の収穫の多寡や、村税の負担の軽重に、喜んだり腹を立てたり、近隣の噂話・・・ 黒島伝治 「田舎から東京を見る」
・・・かつて貴堂において貴鼎を拝見しました時、拙者はその大小軽重形貌精神、一切を挙げて拙者の胸中に了りょうりょうと会得しました。そこで実は倣ってこれを造りましたので、あり体に申します、貴台を欺くようなことは致しませぬ」といった。丹泉は元来毎つねづ・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・政府が君らを締め殺したその前後の遽てざまに、政府の、否、君らがいわゆる権力階級の鼎の軽重は分明に暴露されてしもうた。 こんな事になるのも、国政の要路に当る者に博大なる理想もなく、信念もなく人情に立つことを知らず、人格を敬することを知らず・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・音波の動揺、色彩の濃淡、空気の軽重、そんな事は少しも自分の神経を刺戟しなかった。そんな事は芸術の範囲に入るべきものとは少しも予想しなかった。日本は永久自分の住む処、日本語は永久自分の感情を自由にいい現してくれるものだと信じて疑わなかった。・・・ 永井荷風 「深川の唄」
・・・唯、利益、存在の意義の軽重によって、それが予期したより十年前に自ら倒れるか、十年後に倒れるかである。またオリヂナルの方が早く自然に滅亡するか、イミテーションの方が先に滅亡するかであって、大した違いはない。片方だけを悪いとは決して言わない。両・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・物を盗むにも軽重あり。唯この文字に由て離縁の当否を断ず可らず。民法の親族編など参考にして説を定む可し。 右第一より七に至るまで種々の文句はあれども、詰る処婦人の権力を取縮めて運動を不自由にし、男子をして随意に妻を去るの余地を得せしめたる・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・然るときは、その二物の軽重緩急を察して、まず重大にして急なるものを写さざるべからず。 されば今の日本政府も、何等の大勢を写し出すものか、何物の真形を反射するものか、これを反射して真を誤らざるものか、無偏無党の平心をもってこれを察するは至・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
出典:青空文庫