・・・世間あるいは強いてこれを望む者もあるべしといえども、その迂闊なるは病父母をして健康無事の子を生ましめんとするに異ならず、我輩の知らざる所なり。古人の言に孝は百行の本なりという。孝行は人生の徳義の中にて至極大切なるものにして、我輩も固より重ん・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・私、どうも迂闊なものですから、すっかりよろこんでしまったのです。そして後からよくよく考えてみたら、その七百円の生活費はどこから出てくるのかしらと思ったら、政府が呉れるのではなくて、みなさんの貯金から出すことなのですね。私、すっかり、糠よろこ・・・ 宮本百合子 「幸福について」
・・・ せきは、自分の迂闊さに呆れて、そこそこに湯をきり上げて来た。間借人に対してはいつもあれ程要心深い自分がどうしてそれに目をつけなかっただろう。日本服さえ着ていたら、どんなに隠したって見破ってやれたのに! せきは、異人の女のあの大きな白い・・・ 宮本百合子 「街」
出典:青空文庫