・・・春雨の中や雪おく甲斐の山 これは僕の近作である。次手を以て甲斐の国にいる蛇笏君に献上したい。僕は又この頃思い出したように時時句作を試みている。が、一度句作に遠ざかった祟りには忽ち苦吟に陥ってしまう。どうも蛇笏君などから鞭撻を感じた往・・・ 芥川竜之介 「飯田蛇笏」
・・・が、太宰治氏に教えられたことだが、志賀直哉氏の兎を書いた近作には「お父様は兎をお殺しなされないでしょう」というような会話があるそうである。上品さもここまで来れば私たちの想像外で、「殺す」という動詞に敬語がつけられるのを私はうかつに今日まで知・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・その時、先生は近作の漢詩を取出して高瀬に見せた。中棚鉱泉の附近は例の別荘へ通う隠れた小径から対岸の村落まで先生の近作に入っていた。その年に成るまで真実に落着く場所も見当らなかったような先生の一生は、漢詩風の詞で、その中に言い表してあった。・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・ こんど河出書房から、近作だけを集めた「女の決闘」という創作集が出版せられた。女の決闘は、この雑誌に半箇年間、連載せられ、いたずらに読者を退屈がらせた様子である。こんど、まとめて一本にしたのを機会に、感想をお書きなさい、その他の作・・・ 太宰治 「自作を語る」
・・・という近作を大声で読んでみました。するとまた言いたい事も出て来たので、水を飲み、こんどは友情に就いて話しました。「青春は、友情の葛藤であります。純粋性を友情に於いて実証しようと努め、互いに痛み、ついには半狂乱の純粋ごっこに落ちいる事もあ・・・ 太宰治 「みみずく通信」
・・・ とそっちを向くと、 「君の近作を読みましたよ」と言って、笑っている。 「そうですか」 「あいかわらず、美しいねえ、どうしてああきれいに書けるだろう。実際、君を好男子と思うのは無理はないよ。なんとかいう記者は、君の大きな体格・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・氏の近作『三四郎』はこの筆法で往くつもりだとか聞いている。しかし云々」 小生はいまだかつて『三四郎』をズーデルマンの筆法で書くと云った覚えなし。誰かの話し違か、花袋君の聞違だろう。疎忽なものが花袋君の文を読むと、小生がズーデルマンの真似・・・ 夏目漱石 「田山花袋君に答う」
・・・ Romain Rolland の近作“Colas Breugnon”が出版された。 此は、戦争中に書かれたものだそうだが、上梓されたのはつい近頃の事である。まだ読まないので解らないが、彼の傑作である「ジャン・クリストフ」完成後・・・ 宮本百合子 「最近悦ばれているものから」
・・・ ロシアの艦隊が、その実質にはツァーの政府の腐敗を反映して、どんなものであったかということは、ソヴェトの海洋文学の作者ノヴィコフ・プリボーイの近作「ツシマ」が、私達に雄弁な描写を与えている。 アドミラル・トーゴーの勇名が世界に轟いた・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・ 林房雄は、近作に対して与えられる多くの同志的批判をどう理解しているであろうか。帝国主義戦争強行のため、日本の封建的専制支配が革命運動に対して、今日ほど兇暴であったことはない。失業、農村の飢餓に苦しむ大衆の革命力の深刻な高揚とそれに対す・・・ 宮本百合子 「文学に関する感想」
出典:青空文庫