・・・すると秀吉のその時の素ばらしい威勢だったから、宜しゅうござろう、いと易い事だというので、近衛竜山公がその取計いをしようとした。その時にこの植通公が、「いや、いや、五摂家に甲乙はないようなれど、氏の長者はわが家である、近衛殿の御儘にはなるべき・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・出動部隊は近衛師団、第一師団のほか、地方の七こ師団以下合計九こ師団の歩兵聯隊にくわえて、騎兵、重砲兵、鉄道等の各聯隊、飛行隊の外、ほとんど全国の工兵大隊とで、総員五万一千、馬匹一万頭。それが全警備区に配分されて、配給や救護や、道路、橋の修理・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・全国で一ばん若年の県会議員だったそうで、新聞には、A県の近衛公とされて、漫画なども出てたいへん人気がありました。 長兄は、それでも、いつも暗い気持のようでした。長兄の望みは、そんなところに無かったのです。長兄の書棚には、ワイルド全集、イ・・・ 太宰治 「兄たち」
・・・新聞を読む。近衛さんの写真が出ている。近衛さんて、いい男なのかしら。私は、こんな顔を好かない。額がいけない。新聞では、本の広告文が一ばんたのしい。一字一行で、百円、二百円と広告料とられるのだろうから、皆、一生懸命だ。一字一句、最大の効果を収・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・佐竹は小声でそう呟き、金側の腕時計を余程ながいこと見つめて何か思案しているふうであったが、「日比谷へ新響を聞きに行くんだ。近衛もこのごろは商売上手になったよ。僕の座席のとなりにいつも異人の令嬢が坐るのでねえ。このごろはそれがたのしみさ」言い・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・ちょっと僕にも、などと、ひとりで弱っている姿を見ると、聞き手のほうでも、いい加減じれったくなって来る。近衛公が議会で、日本主義というのは、なんですか? と問われて、さあ、それは、一口でこうと説明は、どうも、その、と大いに弱っていたようであっ・・・ 太宰治 「多頭蛇哲学」
・・・途端に其処に通掛った近衛の将校の方があったのです――凛々しい顔をなすった戦争に強そうな方でしたがねえ、其将校の何処が気に入らなかったのか、其可怖眼をした女の方が、下墨む様な笑みを浮べて、屹度お見でしたの。『彼人達は死ぬのが可いのよ。死ぬ・・・ 広津柳浪 「昇降場」
・・・を今日の日本人が見て、非現実的に感じるのは自然である。近衛秀麿氏が今度それを改作する由、お蝶夫人が歌手で、ピンカートンである音楽家が京都へ演奏旅行をして、最後は、お蝶がヨーロッパへ演奏に行ってその音楽家と出会いハッピーエンドになるように改作・・・ 宮本百合子 「雨の小やみ」
・・・を製作させる今日の中国の歴史生活の意味を感じさせる作品である。近衛秀麿氏の言う如く単なる宣伝映画ではないのである。 つづいて、私は或る機会で、文部省その他の役所の人々が集まってこしらえている「都市生活委員会」主催の「都市生活映画第一篇小・・・ 宮本百合子 「映画の語る現実」
どの新聞にも近衛公の写真が出ていて大変賑わしい。東日にのった仮装写真は、なかでも秀抜である。昔新響の演奏会で指揮棒を振っていた後姿、その手首の癖などを見馴れた近衛秀麿氏が水もしたたる島田娘の姿になって、眼ざしさえ風情ありげ・・・ 宮本百合子 「仮装の妙味」
出典:青空文庫