・・・弟どもも一人一人の知行は殖えながら、これまで千石以上の本家によって、大木の陰に立っているように思っていたのが、今は橡栗の背競べになって、ありがたいようで迷惑な思いをした。 政道は地道である限りは、咎めの帰するところを問うものはない。一旦・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・そのために娑婆のものが迷惑するかも知れない。どうだな。」役人はこわい目をしてツァウォツキイを見た。自殺者を見るには、いつもこんな目附をするのである。「そうですね。忘れたと云えば、子供の生れるのを待って、見て来ようと思ったのですが、それを・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
・・・「お前株内や株内や云うけど、苗字が一緒やで株内やと定ってまいが、それに自分勝手に私とこへ連れて来て、たちまちわしとこが迷惑するやないか。」「定ってら、あんな物に迷惑せんとこって、あるもんか。」「そんならなぜわし所へ連れて来た?」・・・ 横光利一 「南北」
・・・ これらの非難は『いでゆ』の画家にとっては迷惑なことに相違ない。なぜなら、画家があえて描くことを欲しなかったところを、その「欲しなかった」のゆえに非難せられるのだからである。あるいは、画家が好んでなしたところを、その「好んでなした」のゆ・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
出典:青空文庫