・・・これが泉鏡花の小説だと、任侠欣ぶべき芸者か何かに、退治られる奴だがと思っていた。しかしまた現代の日本橋は、とうてい鏡花の小説のように、動きっこはないとも思っていた。 客は註文を通した後、横柄に煙草をふかし始めた。その姿は見れば見るほど、・・・ 芥川竜之介 「魚河岸」
・・・とにかく当分は全力を挙げて蚤退治の工夫をしなければならぬ。……「八月×日 俺は今日マネエジャアの所へ商売のことを話しに行った。するとマネエジャアは話の中にも絶えず鼻を鳴らせている。どうも俺の脚の臭いは長靴の外にも発散するらしい。……・・・ 芥川竜之介 「馬の脚」
・・・では今夜もあの晩のように、ここからいそいそ出て行って、勇ましく――批評家に退治されて来給え。 芥川竜之介 「葱」
・・・わたしは片っ端から退治して見せる。主人 ですがあの王様には、三つの宝があるそうです。第一には千里飛ぶ長靴、第二には、――王子 鉄でも切れる剣か? そんな物はわたしも持っている。この長靴を見ろ。この剣を見ろ。この古いマントルを見ろ。黒・・・ 芥川竜之介 「三つの宝」
・・・記録に現れたのでは、ホメロスを退治した豪傑が、一番早いようです。」「では今でも相当な文明国ですか。」「勿論です。殊に首府にあるゾイリア大学は、一国の学者の粋を抜いている点で、世界のどの大学にも負けないでしょう。現に、最近、教授連が考・・・ 芥川竜之介 「MENSURA ZOILI」
・・・ 魔ものだの、変化だのに、挨拶は変だ、と思ったが、あとで気がつくと、女連は、うわさのある怪しいことに、恐しく怯えていて、陰でも、退治るの、生捉るのとは言い憚ったものらしい。がまあ、この辺にそんなものが居るのかね。……運転手は笑っていたが・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・うかは知らないが、私には大の、ご秘蔵――長屋の破軒に、水を飲ませて、芋で飼ったのだから、笑って故との字をつけておく――またよく馴れて、殿様が鷹を据えた格で、掌に置いて、それと見せると、パッと飛んで虫を退治た。また、冬の日のわびしさに、紅椿の・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
・・・俺は魔を退治たのだ、村方のために。と言って、いまもって狂っております。―― 旦那、旦那、旦那、提灯が、あれへ、あ、あの、湯どのの橋から、……あ、あ、ああ、旦那、向うから、私が来ます、私とおなじ男が参ります。や、並んで、お艶様が。」 ・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・「そりゃ何しろとんだ事だ、私は武者修行じゃないのだから、妖怪を退治るという腕節はないかわりに、幸い臆病でないだけは、御用に立って、可いとも! 望みなら一晩看病をして上げよう。ともかくも今のその話を聞いても、その病人を傍へ寝かしても、どう・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・ 草花屋から、買ってきた殺虫液の効能書には、あり退治にもきくように記してあったが、なぜか、ありにはきくまいというような感じがしました。はたして、使用して見ると、その日だけは、ありの姿を消すが、あくる日になると、依然として、彼等は、木を上・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
出典:青空文庫