・・・ プロレタリア文学運動が、運動として退潮して後、民衆の生活を直接取り上げてゆく作家として加賀氏はプロレタリア文学の正当な要素の受け継ぎ手の一人であるかのように一部の読者に思われている。しかし、一人の作者がその題材でだけ刻下の現実の一面に・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・それと同時に、左翼運動全般が退潮していて、間接な意味ででも一定の方向とか規準とかいうものが明瞭にあらわれていない。しかも、文化面だけでも社会の対立を意識する心にはそれが鋭く感じられる時期であるから、この三つの事情は相互に絡み合いその上外部と・・・ 宮本百合子 「プロ文学の中間報告」
・・・ 二三年前、文学における古典の摂取が云われはじめた時分は、プロレタリア文学運動の退潮を余儀なくさせた社会事情が他面対立的な文学にも貧困の自覚を与えており、それに対して文芸復興が唱えられ、古典の摂取は、当時にあっては、現代の文学的発展のた・・・ 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」
・・・ プロレタリア文学の擡頭は、日本の文学に新しい局面を開き、新たな芸術の価値と質的展開の可能を示したのであったが、一九三二年以後の日本の社会事情は、最も瞠目的な方法と過程で、その退潮を余儀なくさせた。作家として、自己の帰趨に迷ったブル・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・今から四年ばかり前、丁度日本では左翼の全運動が歴史的退潮を余儀なくされるに至ったはじまり頃の作である。 本屋へ行って、「女の一生」とだけ云ってたずねれば、店員はモウパッサンの「女の一生」を持ち出して来るのである。が、この傑作と同じ題をつ・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・ 大学が学問の自主を失ったこと、インテリゲンツィアが左翼の退潮とともに生存の歴史的な方向や見とおしを失って無気力化したことなどが一つの原因で、今日、いかに生きるべきかという問題を、新しく提起していることも事実である。しかし、果して、そう・・・ 宮本百合子 「若き時代の道」
・・・ 大衆の組織が、短時間の活動経験を持ったばかりで、私たちの日常の耳目の表面から退潮を余儀なくされて後、その干潟にはさまざまの残滓や悪気流やが発生した。いかにも若い、しかしながらその価値は滅すべくもない経験の慎重な発展的吟味のかわりに、敗・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
出典:青空文庫