・・・同様に国家社会の歴史の進展の途上にも幾多の橋の袂がある。教育家為政者は行手の橋の袂の所在を充分に地図の上で研究しておかなければならないと思う。 弁慶が辻斬をしたのは橋の袂である。鍋焼うどんや夜鷹もまたしばしば橋の袂を選んで店を張った。獄・・・ 寺田寅彦 「さまよえるユダヤ人の手記より」
・・・ ある途上で、一人の若い背の高い西洋人の前に、四五人の比較的に背の低いしかし若くて立派な日本人が立ち並んで立ち話をしていた。何を話しているかはわからなかったが、ただ一瞥でその時に感ぜられたことは、その日本の紳士たちのその西洋人に対する態・・・ 寺田寅彦 「試験管」
一年に二度ずつ自分の関係している某研究所の研究成績発表講演会といったようなものが開かれる。これが近年の自分の単調な生活の途上に横たわるちょっとした小山の峠のようなものになっている。学生時代には学期試験とか学年試験とかいうも・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・わたくしは行先の当てもなく漫然散策していた途上であった。二君はこの日午前より劇場に在って演劇の稽古の思いの外早く終ったところから、相携えてこの店に立寄られたのだと云う。店の主人は既にわたくしとは相識の間である。偶然の会合に興を得て店頭の言談・・・ 永井荷風 「百花園」
・・・わたくしは十余年前に浦安に赴く途上、初めて放水路をわたった時の荒凉たる風景を憶い浮べ、その眺望の全く一変したのに驚いて、再び眼を見張った。 堤防には船堀橋という長い橋がかけられている。その長さは永代橋の二倍ぐらいあるように思われる。橋は・・・ 永井荷風 「放水路」
・・・これは帰朝の途上わたくしが土耳古の国旗に敬礼をしたり、西郷隆盛の銅像を称美しなかった事などに起因したのであろう。しかし静に考察すれば芸術家が土耳古の山河風俗を愛惜する事は、敢て異となすには及ばない。ピエール・ロチは欧洲人が多年土耳古を敵視し・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
・・・その日深川の町からここに至るまで、散歩の途上に、やや年を経た樹木を目にしたのはこれが始めてである。道は辻をなし、南北に走る電車線路の柱に、「稲荷前」と書いてその下にベンチが二脚置いてある。また東の方へ曲る角に巡査派出所があって、「砂町海水浴・・・ 永井荷風 「元八まん」
・・・出発のはじめから、保守の重いかげとたたかいつつある日本民主化の途上で自分たちの血と涙とをとおして平和を要望し、そのための世界的協力を切望している日本の婦人大衆の誠意をここに披瀝いたします。日本の目ざめた婦人大衆は、自分たちの真心からのよびか・・・ 宮本百合子 「国際民婦連へのメッセージ」
・・・日本の労働者階級が民主革命の途上で自身の文学の成果として造型してゆかなければならない諸階級との関係は、多くの複雑さを必要とするものである。 政治の優位性の問題は、今日まで四年間の苦しい経験によって、イデオロギーの問題から、創作の現実過程・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ こういう惨澹たる日本の現実は、十何年かの昔、日本文学の発展途上に提起されていたいくつかの重要な課題について、その後今日まで、一度もまともにとりあげ話しあう折を与えずにきた。研究し、討議され、なっとくを深める機会を得ずにきている。日本の・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
出典:青空文庫