・・・もっともその日は特に蒸し暑かったのに、ああいう、設計者が通風を忘れてこしらえた美術館であるためにそれがさらにいっそう蒸し暑く、その暑いための不愉快さが戸惑いをして壁面の絵のほうにぶつかって行ったせいもあるであろう。実際二科院展の開会日に蒸し・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・尤もその日は特に蒸暑かったのに、ああいう、設計者が通風を忘れてこしらえた美術館であるためにそれが更に一層蒸暑く、その暑いための不愉快さが戸惑いをして壁面の絵の方に打つかって行ったせいもあるであろう。実際二科院展の開会日に蒸暑くなかったという・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・ 場内の通風はあまり良好でないのか、傍聴席の空気は甚だ不純なようであった。 傍聴者は、みんな非常に真面目に黙って一心に下を覗き込んでいた。そういう人達の顔を見ると、下にはかなり真面目な重大な事柄が進行しているという事が分るような気が・・・ 寺田寅彦 「議会の印象」
・・・暑い日の舞台の上は自然的の通風で案外涼しいかもしれないし、それでなくても、その役者が真面目に芝居をやっている限りその日が特に暑い日であるかないか分るはずがないのである。それは炭坑の底に働いている坑夫に、天気が晴れているのか暴れているのかが分・・・ 寺田寅彦 「さまよえるユダヤ人の手記より」
・・・各国の国旗で通風管や巻き上げ器械などを包みかくし、手すりにも旗を掛け連ねた。赤、青、緑、いろいろの電球をズックの天井の下につるし並べてイルミネーションをやる。一等室のほうからも燕尾服の連中がだんだんにやってくる。女も美しい軽羅を着てベンチへ・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・熱つや苦しや、通風の悪い残暑の人いきれ。観音様が流行らないなら、モガの一人も張り飛ばして、食堂でアイスカフェーの食券一枚。 六 大家は大家で小家は小家、そして中家は中家で世紀はめぐる。鯛の頭に孔雀の尻尾。動物・・・ 寺田寅彦 「二科狂想行進曲」
・・・ 床下の通風をよくして土台の腐朽を防ぐのは温湿の気候に絶対必要で、これを無視して造った文化住宅は数年で根太が腐るのに、田舎の旧家には百年の家が平気で立っている。ひさしと縁側を設けて日射と雨雪を遠ざけたりしているのでも日本の気候に適応した・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・皮膚の弱いひろ子は、全く通風のない、びっしょり汗にぬれた肌も浴衣もかわくということのない監房の生活で、毛穴一つ一つに、こまかい赤い汗もが出来た。医者は、その汗もに歯みがき粉をつけておけと、云った。しまいに掌、足のうら、唇のまわりだけのこして・・・ 宮本百合子 「風知草」
出典:青空文庫