・・・北は見渡す限り目も藐に、鹿垣きびしく鳴子は遠く連なりて、山田の秋も忙がしげなり。西ははるかに水の行衛を見せて、山幾重雲幾重、鳥は高く飛びて木の葉はおのずから翻りぬ。草苅りの子の一人二人、心豊かに馬を歩ませて、節面白く唄い連れたるが、今しも端・・・ 川上眉山 「書記官」
・・・茫々たる海の極は遠く太平洋の水と連なりて水平線上は雲一つ見えない、また四国地が波の上に鮮やかに見える。すべての眺望が高遠、壮大で、かつ優美である。 一同は寒気を防ぐために盛んに焼火をして猟師を待っているとしばらくしてなの字浦の方からたく・・・ 国木田独歩 「鹿狩り」
・・・武光山より右にあたりて山々連なり立てるが中に、三峰は少しく低く黒みて見ゆ。それより奥の方、甲斐境信濃境の高き嶺々重なり聳えて天の末をば限りたるは、雁坂十文字など名さえすさまじく呼ぶものなるべし。 進み進みて下影森を過ぎ上影森村というに至・・・ 幸田露伴 「知々夫紀行」
・・・あの子供らのよく遊びに行った島津山の上から、芝麻布方面に連なり続く人家の屋根を望んだ時のかつての自分の心持ちをも思い合わせ、私はそういう自分自身の立つ位置さえもが――あの芸術家の言い草ではないが、いつのまにか墓地のような気のして来たことを胸・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・お三輪はそれを聴きながら、その公園に連なり続く焼跡の方のことを思いながら寝た。 翌朝になると、二度と小竹の店を見る日は来ないかのような、その譬えようもないお三輪のさびしさが、思いがけない心持に変って行った。ふと、お三輪は浦和の古い寺の方・・・ 島崎藤村 「食堂」
・・・琵琶湖の東北の縁にほぼ平行して、南北に連なり、近江と美濃との国境となっている分水嶺が、伊吹山の南で、突然中断されて、そこに両側の平野の間の関門を形成している。伊吹山はあたかもこの関所の番兵のようにそびえているわけである。大垣米原間の鉄道線路・・・ 寺田寅彦 「伊吹山の句について」
・・・至るところの谷や斜面には牧場が連なり、りんごが実って、美しい国だと思いました。 それからストラスブルクを見て、ニュルンベルクへ参りました。中世のドイツを見るような気がしておもしろうございました。市庁の床下の囚獄を見た時は、若い娘さんがラ・・・ 寺田寅彦 「先生への通信」
出典:青空文庫