・・・もしかような時にせめて山岡鉄舟がいたならば――鉄舟は忠勇無双の男、陛下が御若い時英気にまかせやたらに臣下を投げ飛ばしたり遊ばすのを憂えて、ある時イヤというほど陛下を投げつけ手剛い意見を申上げたこともあった。もし木戸松菊がいたらば――明治の初・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・私が申し上げた通りに遊ばせば、こんな事にはならないで済んだんで御座いますのに、あなたが婆さんの迷信だなんて、あんまり人を馬鹿に遊ばすものですから……」「こんな事にもあんな事にも、まだ何にも起らないじゃないか」「いえ、そうでは御座いま・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・「へえ若い御夫婦って―― どこへお家を御建て遊ばすんでございます?「何! なんでもないんだよ、 お前あした金物屋へ行ってね一寸目位の高さが四尺位で長さが一間半位の『ふせかご』を作るようにたのんどいで。 三日位まででね。・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・美くしく化粧した光君の姿が車の中に入った時あとにのこる女達は急になさけない気持に、「お大切に遊ばす様に」「あんまり御歎きにならない様に」「ここに残って御身の上を御案じ申しあげて居るものを御忘れなく」などと云うことばは車のそば・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・ 寝つづけてお出遊ばすお師様の御夢を御守りして斯うやって居なければいけない―― 私達の夢はどこの誰が守ってるんだろう。第二の若僧 神の御試みに会って居るのだと思えばそれですべての事はすんで仕舞う筈なんです。このまんま死んで行って・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・今度王女様が隣りの国の王子と御婚礼遊ばすについて、どうか、朝着る着物を、貴女に繍って貰いたいとおっしゃいます。夜のお召は、宝石という宝石を鏤めて降誕祭の晩のように立派に出来ました。朝のお召は、何とかして、夜明けから昼迄の日の色、草木の様子を・・・ 宮本百合子 「ようか月の晩」
・・・「ご病気はいかにもご重体のようにはお見受け申しまするが、神仏の加護良薬の功験で、一日も早うご全快遊ばすようにと、祈願いたしておりまする。それでも万一と申すことがござりまする。もしものことがござりましたら、どうぞ長十郎奴にお供を仰せつけら・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・彼は子供を遊ばすことが何よりも上手であった。彼はいつも子供の宿ったときに限ってするように、また今日も五号の部屋の前を往ったり来たりし始めた。次には小さな声で歌を唄った。暫くして、彼はソッと部屋の中を覗くと、婦人がひとり起きて来て寝巻のまま障・・・ 横光利一 「赤い着物」
出典:青空文庫