・・・は階級制度が厳しいために過去の英雄豪傑は非常にえらい人のように見えて、自分より上の人は非常にえらくかつ古人が世の中に存在し得るという信仰があったため、また、一は所が隔たっていて目のあたり見なれぬために遠隔の地の人のことは非常に誇大して考えら・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・余輩のいわゆる遠ざかるとは、たがいに遠隔して敵視するをいうに非ず、また敬してこれを遠ざくるの義にも非ず。遠ざかるは近づくの術なり、離るるは合するの方便なり。近くその例を示さん。他人の同居して不和なる者、別宅して相親しむべし。他人のみならず、・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・ 経済再建のトップに立つ日本の紡績界の半封建のままの少女労働の搾取に対して、厚生省が、一、女工寄宿舎制度の撤廃、二、遠隔地からの女工員募集禁止、三、女子の就業率引下げと男子労務の増強、四、通勤による工員の確保、などを要望すると語られてい・・・ 宮本百合子 「その檻をひらけ」
・・・むしろある遠隔な土地へ行くためにはその苦しみが当然であることを感じている。たとえ眠られぬ真夜中に、堅い腰掛けの上で痛む肩や背や腰を自分でどうにもできないはかなさのため、幽かな力ない嘆息が彼らの口から洩れるにしても。 私はこんな空想にふけ・・・ 和辻哲郎 「停車場で感じたこと」
出典:青空文庫