・・・ と、釈然としてくれて、式は無事に済んだ。 ところが、四五日たって、新婚の夫婦を見舞うと、細君は変な顔をしていた。私は細君がいない隙をうかがって、「どうした、喧嘩でもしたのか」ときくと、「喧嘩はせんがね。どうもうまく行かん」・・・ 織田作之助 「鬼」
・・・これだなと、はじめて釈然とした途端、彼は新事業を思いついた。彼はあり金をはたいて、盗難よけのベルの製造をはじめた。製品が出来たので、彼は注文を取って廻った。そして帰って見ると、製品の盗難よけベルはいつの間にか一つ残らず盗まれていた。・・・ 織田作之助 「ヒント」
・・・そうしてお互い、どうしても釈然と笑いあうことができないのである。 はじめこの家にやってきたころは、まだ子供で、地べたの蟻を不審そうに観察したり、蝦蟇を恐れて悲鳴を挙げたり、その様には私も思わず失笑することがあって、憎いやつであるが、これ・・・ 太宰治 「畜犬談」
・・・即ち双方の胸に一物あることにして、其一物は固より悪事ならざるのみか、真実の深切、誠意誠心の塊にても、既に隠すとありては双方共に常に釈然たるを得ず、之を彼の骨肉の親子が無遠慮に思う所を述べて、双方の間に行違もあり誤解もありて、親に叱られ子に咎・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・文学作品を文学の作品として理解してゆくたすけとなるばかりでなく、読者としての自分たちがこの社会の現実関係のなかで、どんな関係におかれているかも釈然として、そこから感じて来るものは浅くあるまいと信じられる。「長篇の形式と内容の問題」で、こ・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・彼は長い間の難解な問題が思わずここに釈然とした思いがした」ところが、この作品のヒューマニズムの帰結なのである。「あらくれ」に同じ作者によって書かれている自分の家系の物語、愛子物語をあわせ読むと、舟橋氏のヒューマニズムが一般人間性の観・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫