・・・そして、公平に、坑夫でも手子でも空いていさえすれば、一等室に這入らした。その事実を曲げない、公平なだけでも、坑夫達には親のように有難かった。だが、それだけに、この坑山では、直ちに、追い出される理由になった。「糞ッ!」 彼等は、坑内へ・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・そんな工合で互に励み合うので、ナマケル奴は勝手にナマケて居るのでいつまでも上達せぬ代り、勉強するものはズンズン上達して、公平に評すれば畸形的に発達すると云っても宜いが、兎に角に発達して行く速度は中々に早いものであったのです。 併し自修ば・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・なるほどこれは悪意で言ったのではなかったが、己を以て人を律するというもので、自分が遊びでも人も遊びと定まっている理はないのであった。公平を失った情懐を有っていなかった自分は一本打込まれたと是認しない訳には行かなかった。が、この不完全な設備と・・・ 幸田露伴 「蘆声」
・・・卒業証書は金色の額縁にいれて母の寝間の壁に飾り、まことにこれ父母に孝、兄弟には友ならず、朋友は相信ぜず、お役所に勤めても、ただもうわが身分の大過無きを期し、ひとを憎まず愛さず、にこりともせず、ひたすら公平、紳士の亀鑑、立派、立派、すこしは威・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・その時、あなたのお弁当のおかずは卵焼きと金平牛蒡で、私の持って来たお弁当のおかずは、筋子の粕漬と、玉葱の煮たのでした。あなたは、私の粕漬の筋子を食べたいと言って、私に卵焼きと金平牛蒡をよこして、そうして私の筋子と玉葱の煮たのを、あなたが食べ・・・ 太宰治 「冬の花火」
・・・ちょっと考えると、少なくも科学者のほうは、学問の性質上きわめて博愛的で公平なものでありそうなのに事実は必ずしもそうでないのは謎理的のようである。しかしよく考えてみると、科学者芸術家共に他の一面において本来一種の自己主義者たるべき素質を備えて・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・そうするのが実行上最も便宜であり、結果においても比較的公平を期することが出来るであろう。 こんな工合であるから論文の価値は結局少しも絶対的なものでなく、全く相対的に審査員の如何によって定まる性質のものである。尤も中にはほとんど如何なる審・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・交番はすぐ眼の前にあった。公平な第三者をかりなければ御互いの水掛論ではとても始末が着かないと思ったのである。車掌は「エエ、参りますよ、参りますとも、いくらでも参りますよ」とそう云って私について来た。 警官は私等二人の簡単な陳述を聞いてい・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・印刷機械の錆付きそうな会社の内部に在って、利平達は、職長仲間の団体を造って、この争議に最初の間は「公平なる中立」の態度を持すと声明していた。尤もそれを信用する争議団員は一人もありはしなかったが……しかし、モウ今日では、利平達は、社長の唯一の・・・ 徳永直 「眼」
・・・観察の公平無私ならんことを希うのあまり、強いて冷静の態度を把持することは、却て臆断の過に陥りやすい。僕等は宗教家でもなければ道徳家でもない。人物を看るに当って必しも善悪邪正の判決を求めるものではない。唯人物を能く看ることが出来れば、それでよ・・・ 永井荷風 「申訳」
出典:青空文庫