・・・勝軍地蔵は日本製の地蔵で、身に甲冑を着け、軍馬に跨って、そして錫杖と宝珠とを持ち、後光輪を戴いているものである。如何にも日本武士的、鎌倉もしくは足利期的の仏であるが、地蔵十輪経に、この菩薩はあるいは阿索洛身を現わすとあるから、甲を被り馬に乗・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・測量部員が真に人跡未到と思われる深山を歩いていたらさび朽ちた一本の錫杖を見つけたという話もあるそうである。 地形測量の基礎になるだいじな作業はいわゆる一等三角測量である。いわゆる基線が土台になって、その上にいわゆる一等三角点網を組み立て・・・ 寺田寅彦 「地図をながめて」
・・・何とかの段は更なり、雲助とかの肩によって渡る御侍、磧に錫杖立てて歌よむ行脚など廻り燈籠のように眼前に浮ぶ心地せらる。街道の並木の松さすがに昔の名残を止むれども道脇の茶店いたずらにあれて鳥毛挟箱の行列見るに由なく、僅かに馬士歌の哀れを止むるの・・・ 寺田寅彦 「東上記」
・・・盥ほどある鉄の受糧器を持って、腕の太さの錫杖を衝いている。あとからは頭を剃りこくって三衣を着た厨子王がついて行く。 二人は真昼に街道を歩いて、夜は所々の寺に泊った。山城の朱雀野に来て、律師は権現堂に休んで、厨子王に別れた。「守本尊を大切・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
出典:青空文庫