・・・で、著者は過去の理解が、現実の歴史との関係で文学史を静的なものとし、批評を動的なものとして区別をもったまま止っていた誤りを訂して、両者の職能を密接な関連のもとに統一することをこそ、批評の本質が批評家に求めているものとしてみている。こういうも・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・科学的探求を、云うところの学問として静的に見ず、社会と歴史とに働きかけ又それらから働きかけられつつ動く人間的行為、実践として科学を把握する科学者。これから益々そういう科学者が生れなければならない。 今日我々がうけついでいる文化、感情、知・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・のような静的なリリシズムに曲折するのであろう。この愛についても例外的な境地に生きる女詩人が、今既にある峯に立っているその境地のなかで、そのような想念と情緒とをどのように展開し、すこやかに渾然と成熟させてゆくか。愛という字をつかわずに、人々の・・・ 宮本百合子 「『静かなる愛』と『諸国の天女』」
・・・半封建的なブルジョア文学との闘争とプロレタリア文学運動発展の途上において、世界の現実を見る、より社会的政治的な発展的な目を作家に与えた点、静的な自然主義的リアリズムから社会発展の方向においてのリアリズムを理解させた点、無視することはできない・・・ 宮本百合子 「社会主義リアリズムの問題について」
・・・ 作者は、この人生に日本の過去の教養的常識が呈出して来たあくの抜けたもの、静的な美のかわりに、「動物的なもの」「骨格をつくる」ところの「アクのつよいもの」の価値を主張している。亮子という溌剌として生来の生活力を豊富に蔵した若い女を通じて・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・この面は、プロレタリア文学の遺産の継承に関する討論と等しく、わたくしには非常に静的に論議されていると感じられました。例えば、組合の闘争において、権力との闘いにおいて、プロレタリアートの全線にプラスするどんな小さな成果も、わたしたちはそれを念・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・ ○夜が更けた中に起きて居ると、不思議に静的な万物が、彼女の心を嚇かす。 昼間は、多勢の人々の動作につれて、いつもみだされて居た家具調度の輪廓が、妙にくっきりとうき上って、しんと澱んだ深夜の空気の中に、かっきりとはめ込んだように・・・ 宮本百合子 「無題(三)」
・・・経験というものはそういう時代になると、静的に解釈されれば何の力もないことになる。何故なら、去年あることがそうであったという事実は、今年同じあることがそうであるということにはなっていないのだから。去年の経験さえ役に立たないものになって来ている・・・ 宮本百合子 「ものわかりよさ」
・・・鴎外は、女がさまざまの社会の波瀾に処し、苦しみ涙をおとしながらなおどこにか凜然とした眼差しを持って立って、周囲を眺めやっている姿に、ロマンティックな美を見出している。静的ではあるが、人生を何か内部的な緊張をもった光でつらぬこうとする姿が描か・・・ 宮本百合子 「歴史の落穂」
出典:青空文庫