・・・だから、まず順序として、親戚で借りることを考えてみる。京都には親戚が二軒、下鴨と鹿ヶ谷にあり、さて学校から歩いて行ってどっちの方が近いかなどとは、この際贅沢な考え、じつのところどちらへも行きたくない。行けない。両方とも既にしばしば借りて相当・・・ 織田作之助 「天衣無縫」
・・・「まあこれで、順序どおりには行ったし、思ったよりも立派にできた方ですよ。第一公式なんかの滑稽はかまわないとしても、金の方でボロが出やしないかとビクビクだったが、それもどうやら間に合ったんだし、大事な人たちは来てくれたし、まあけっこうな方・・・ 葛西善蔵 「父の葬式」
・・・その闇のなかへ同じような絶望的な順序で消えてゆく私自身を想像し、言い知れぬ恐怖と情熱を覚えたのである。―― その記憶が私の心をかすめたとき、突然私は悟った。雲が湧き立っては消えてゆく空のなかにあったものは、見えない山のようなものでもなく・・・ 梶井基次郎 「蒼穹」
・・・されど母上はなお貴嬢が情けの変わりゆきし順序をわれに問いたまいたれど、われいかでこの深き秘密を語りつくし得ん、ただ浅き知恵、弱き意志、順なるようにてかえって主我の念強きは女の性なるがごとしとのみ答えぬ。げにわれは思う、女もし恋の光をその顔に・・・ 国木田独歩 「おとずれ」
・・・なかなか順序がよすぎるじゃないか、とても早すぎる。が、その背後にどんな計画があったか、それは君の想像にまかせる。 防備隊というのは兵隊じゃない普通の地方人だ。青年団や、中学生だ。「何をしていた!」夜中の二時頃、俺が集合場に馳せつける・・・ 黒島伝治 「防備隊」
・・・と、いうように何も明白に順序立てて自然に感じられるわけでは無いが、何かしら物苦しい淋しい不安なものが自分に逼って来るのを妻は感じた。それは、いつもの通りに、古代の人のような帽子――というよりは冠を脱ぎ、天神様のような服を着換えさせる間にも、・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・これは、矛盾ではなくして、正当の順序である。人間の本能は、かならずしも正当・自然の死を恐怖するものではない。彼らは、みなこの運命を甘受すべき準備をなしている。 故に、人間の死ぬのは、もはや問題ではない。問題は、実に、いつ、いかにして死ぬ・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・室に出掛けて行って、キャンキャンした大声でケイサツを馬鹿呼ばりし、自分の息子を賞め、こんなことになったのは他人にだまされたんだと云い、息子をとられて、これからどう暮して行くんだ――それだけの事を文句も順序も同じに繰りかえして、進は腕のいゝ旋・・・ 小林多喜二 「母たち」
・・・言っても、十一二歳のころからすでに父母の手を離れて、専門教育に入るまでの間、すべてみずから世波と闘わざるを得ない境遇にいて、それから学窓の三四年が思いきった貧書生、学窓を出てからが生活難と世路難という順序であるから、切に人生を想う機縁のない・・・ 島村抱月 「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」
・・・大抵の場合不確な考えの翻訳と云う順序を踏まなければならず、為に、私共は、よく間違って仕舞います。 けれども、スバーの黒い眼には、何の翻訳もいりませんでした。心そのものが影をなげました。眼の裡に、思いは開き閉じ、耀き出すかと思えば、闇の中・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
出典:青空文庫