・・・たとえば、絶対収斂の場合、昔は順序に無関係に和が定るという意味に用いられていました。それに対して条件的という語がある。今では、絶対値の級数が収斂する意味に使うのです。級数が収斂し、絶対値の級数が収斂しないときには項の順序をかえて、任意の l・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・それで映画を論ずる場合に映画の技術に関する科学的の基礎と、その主要なテクニークについて一通りの解説をするのが順序であるが、この一編の限られた紙数の中にこれを述べている余地がないから、ここではいっさいこれらを省略する。しかし大多数の読者がこの・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・わたしはこれを陋習となして嘲った事もあったが、今にして思えばこれ当然の順序というべきである。観世捻をよる事を知らざれば紙を綴ずることができない。紙を綴ることを知らざれば書抜を書くも用をなさぬわけである。事をなすに当って設備の道を講ずるは毫も・・・ 永井荷風 「十日の菊」
・・・ また私のここにいわゆる文芸は文学である、日本における文学といえば先小説戯曲であると思います。順序は矛盾しましたが、広義の教育、殊に、徳育とそれから文学の方面殊に、小説戯曲との関係連絡の状態についてお話致します。日本における教育を昔と今・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・未だ遠ざからずして、まず相近づかんとするは、事の順序を誤るものというべし。けだし各種の人がめいめいの地位にいて、その地位の利害におおわれ、ついに事柄の判断を誤るものは、他の地位の有様を詳にすること能わざるがゆえなり。その有様に密接すること、・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・本義などという者は到底面白きものならねば読むお方にも退屈なれば書く主人にも迷惑千万、結句ない方がましかも知らねど、是も事の順序なれば全く省く訳にもゆかず。因て成るべく端折って記せば暫時の御辛抱を願うになん。 凡そ形あれば茲に意あ・・・ 二葉亭四迷 「小説総論」
・・・とかように初に置くこと感情の順序に戻りて悪し。『万葉』にてはかくいわず。全くこの語を廃するか、しからざれば「煙立ついぶせ」などように終りに置くべし。下二句の言い様も俗なり。赤賤家這入せばめて物ううる畑のめぐりのほほづきの・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・「清作が 納屋にしまった葡萄酒は 順序ただしく みんなはじけてなくなった。」「わっはっはっは、わっはっはっは、ホッホウ、ホッホウ、ホッホウ。がやがやがや……。」「やかましい。きさまら、なんだってひとの酒のことなどおぼえて・・・ 宮沢賢治 「かしわばやしの夜」
・・・であろうとも、まず顔に目をひかれ初めるものであるという人間の素朴本然な順序に、すらりとのりうつって、こちらに顔を向けている三人の距離を、人間の顔というよすがによって踰えている。偶然によってではなくて、はっきりした考えをもって、芸術の虚構の効・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・それから弥一右衛門の追腹、家督相続人権兵衛の向陽院での振舞い、それがもとになっての死刑、弥五兵衛以下一族の立籠りという順序に、阿部家がだんだん否運に傾いて来たので、又七郎は親身のものにも劣らぬ心痛をした。 ある日又七郎が女房に言いつけて・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫