・・・ 夕飯の仕度にとりかかっていたら、お隣りの奥さんがおいでになって、十二月の清酒の配給券が来ましたけど、隣組九軒で一升券六枚しか無い、どうしましょうという御相談であった。順番ではどうかしらとも思ったが、九軒みんな欲しいという事で、とうとう・・・ 太宰治 「十二月八日」
・・・自己紹介が、めぐりめぐって、だんだん順番が、末席のほうに近くなって来た。今に私の番になったら、私はこんな状態で、一体なんと言って挨拶したらいいのか。こんなに取乱してしまって、大演説なぞは、思いも寄らぬ事である。いよいよ酔漢の放言として、嘲笑・・・ 太宰治 「善蔵を思う」
・・・ いちばん大きな筒の順番はなかなか廻って来なかった。かれこれ半時間の余も見ていたが、いっこうに此方へは手を付けない。自分の周囲で見ている連中にもやはりそれが気になるらしい事を云い合っているのがあった。私は自分が子供の時に九段上の広場で見・・・ 寺田寅彦 「雑記(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・表紙画は順番で受け持つ事になっているらしい。 出品画を書いているうちは、ひどく人の見るのを厭がって、みんな方々の部屋の隅へ頭をつっこんで描いていた。時々兄さん達が無理に覗きに来ていけないという訴えが小さい子等から母や祖母の前に提出されて・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
・・・なるべく藤野には読ませぬようにしたいとだれも思ったろうが、そういうわけにも行かぬのでやはり順番で読ませる。すると五回に一度は何かしら間違えてそのたびに非常に恥じて悲しい顔をする。そしてズボンのひざをかかえていっそう考え込むのであ・・・ 寺田寅彦 「花物語」
・・・二人の子が順番でかわるがわる取るのであったが、年上のほうは虫に手をつけるのをいやがって小さなショベルですくってはジャムの空罐へほうり込んでいた。小さい妹のほうはかえって平気で指でつまんで筆入れの箱の上に並べていた。 庭の楓のはあらかた取・・・ 寺田寅彦 「簔虫と蜘蛛」
・・・ 忘れもしない、その夜の大雪は、既にその日の夕方、両国の桟橋で一銭蒸汽を待っていた時、ぷいと横面を吹く川風に、灰のような細い霰がまじっていたくらいで、順番に楽屋入をする芸人たちの帽子や外套には、宵の口から白いものがついていた。九時半に打・・・ 永井荷風 「雪の日」
・・・別に一区の講堂ありて、読書・数学の場所となし、手習の暇に順番を定め、十人乃至十五人ずつ、この講堂に出でて教を受く。 一所の小学校に、筆道師・句読師・算術師、各一人、助教の数は生徒の多寡にしたがって一様ならず、あるいは一人あり、あるいは三・・・ 福沢諭吉 「京都学校の記」
・・・たとえば、大工が普請するとき、柱の順番を附くるに、梁間の方、三尺毎にいろはの印を付け、桁行の方、三尺毎に一二三を記し、いの三番、ろの八番などいうて、普請の仕組もできるものなり。大工のみにかぎらず、無尽講のくじ、寄せ芝居の桟敷、下足番の木札等・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・が、ゆうべは、夜中になってから熱中しはじめて、いつしか夜があけ、くたびれて動けなかったので私は寝ていて、栄さんやいねちゃんが出かけ、その人々は中野の方へ用事で行き、かえりに栄さんがよって、とてもひどい順番で、年内は無駄だろうと知らせてくれま・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫