立てきった障子にはうららかな日の光がさして、嵯峨たる老木の梅の影が、何間かの明みを、右の端から左の端まで画の如く鮮に領している。元浅野内匠頭家来、当時細川家に御預り中の大石内蔵助良雄は、その障子を後にして、端然と膝を重ねた・・・ 芥川竜之介 「或日の大石内蔵助」
・・・お子さんの命は預りました。とにかく出来るだけのことはして見ましょう。もしまた人力に及ばなければ、……」 女は穏かに言葉を挟んだ。「いえ、あなた様さえ一度お見舞い下されば、あとはもうどうなりましても、さらさら心残りはございません。その・・・ 芥川竜之介 「おしの」
・・・憚りながら平吉売らないね。預りものだ、手放して可いものですかい。 けれども、おいそれとは今言ったような工合ですから、いずれ、その何んでさ。ま、ま、めし飲れ、熱い処を。ね、御緩り。さあ、これえ、お焼物がない。ええ、間抜けな、ぬたばかり。こ・・・ 泉鏡花 「国貞えがく」
・・・所詮の事に、今も、婦に遣わします気で、近い処の縁日だけ、蝋燭の燃えさしを御合力に預ります。すなわちこれでございます。」 と袂を探ったのは、ここに灯したのは別に、先刻の二七のそれであった。 犬のしきりに吠ゆる時――「で、さてこれを・・・ 泉鏡花 「菎蒻本」
・・・決してあの、唯今のことにつきましておねだり申しますのではございません、これからは茶店を預ります商売冥利、精一杯の御馳走、きざ柿でも剥いて差上げましょう。生の栗がございますが、お米が達者でいて今日も遊びに参りましたら、灰に埋んで、あの器用な手・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・続きましては、手前預りまする池なり、所持の屋形船。烏滸がましゅうござりますが、従って手前どもも、太夫様の福分、徳分、未曾有の御人気の、はや幾分かおこぼれを頂戴いたしたも同じ儀で、かような心嬉しい事はござりませぬ。なおかくの通りの旱魃、市内は・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・ど、ど、どれも諸家様の御秘蔵にござりますが、少々ずつ修覆をいたす処がありまして、お預り申しておりますので。――はい、店口にござります、その紫の袈裟を召したのは私が刻みました。祖師のお像でござりますが、喜撰法師のように見えます処が、業の至りま・・・ 泉鏡花 「夫人利生記」
・・・――夫をはじめ、――私の身につきました、……実家で預ります財産に、目をつけているのです。いまは月々のその利分で、……そう申してはいかがですが、内中の台所だけは持っておるのでございますけれど、その位では不足なのです。――それ姪が見合をする、従・・・ 泉鏡花 「山吹」
・・・ としみじみ、早口の女の声も理に落ちまして、いわゆる誠はその色に顕れたのでありますから、唯今怪しい事などは、身の廻り百由旬の内へ寄せ附けないという、見立てに預りました小宮山も、これを信じない訳には行かなくなったのでありまする。「そり・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・ ――昨夜、亀吉は大阪駅の東出口の荷物預り所で、脊中の荷物を預けている復員軍人を見た。 亀吉は何思ったか、寄って行って、その復員軍人が、カードに、「小沢十吉……」 と、書いたのを、素早く読み取った。 そして小沢が引換のチ・・・ 織田作之助 「夜光虫」
出典:青空文庫