・・・僕は飛び上がるほど嬉しくなりました。中の口の帽子かけに庇のぴかぴか光った帽子が、知らん顔をしてぶら下がっているんだ。なんのこったと思うと、僕はひとりでに面白くなって、襖をがらっと勢よく開けましたが、その音におとうさんやおかあさんが眼をおさま・・・ 有島武郎 「僕の帽子のお話」
・・・ しばらくして、境が、飛び上がるように起き直ったのは、すぐ窓の外に、ざぶり、ばちゃばちゃばちゃ、ばちゃ、ちゃッと、けたたましく池の水の掻き攪さるる音を聞いたからであった。「何だろう。」 ばちゃばちゃばちゃ、ちゃッ。 そこへ、・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・銃の台が時々脛を打って飛び上がるほど痛い。 「オーい、オーい」 声が立たない。 「オーい、オーい」 全身の力を絞って呼んだ。聞こえたに相違ないが振り向いてもみない。どうせ碌なことではないと知っているのだろう。一時思い止まった・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・不意に飛び立って水面をすれすれに飛びながら何かしら啄んでは空中に飛び上がる。水面を掠めてとぶ時に、あの長い尾の尖端が水面を撫でて波紋を立てて行く。それが一種の水平舵のような役目をするように見える。それにしてもこの鳥が地上に下りている時に絶え・・・ 寺田寅彦 「浅間山麓より」
・・・十歳ぐらいのころ初めて歯医者の手術椅子一名拷問椅子にのせられたとき、痛くないという約束のが飛び上がるほど痛くて、おまけにそのあとの痛みが手術前の痛みに数倍して持続したので、子供心にひどく腹が立って母にくってかかり、そうしてその歯医者の漆黒な・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・二段ずつ飛ぶこともあり五六段ずつ飛び上がるときもある。地上七十余尺の頂上まで上ってしばらく四方を展望していると思うと、突然石でも落とすようにダイヴするが途中から急に横にそれて、直角双曲線を空中に描きながらどこかの庭木へ飛んで行く。しばらくす・・・ 寺田寅彦 「藤棚の陰から」
・・・情が動くままに体が動く、花が散ると眠り鳥がさえずると飛び上がる。詩人ジョン・キーツはこの生活を憧憬して歌う、No, the bugle sounds no more,And twanging bow no more ;S・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫