・・・媚びず怒らず詐らず、しかも鷹揚に食品定価の差等について説明する、一方ではあっさりとタオルの手落ちを謝しているようであった。 しかし悲しいことにはこのたぶん七十歳に遠くはないと思われる老人には今日が一九三五年であることの自覚が鮮明でないら・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・ 食堂のほかには食品を販売する部が階下にある。人によると近所の店屋で得られると同じ罐詰などを、わざわざここまで買いに来るということである。買い物という行為を単に物質的にのみ解釈して、こういう人を一概に愚弄する人があるが、自分はそれは少し・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・ ある日須利耶さまは童子と食卓にお座りなさいました。食品の中に、蜜で煮た二つの鮒がございました。須利耶の奥さまは、一つを須利耶さまの前に置かれ、一つを童子にお与えなされました。(喰童子が申されました。(おいしいのだよ。どれ、箸をお貸・・・ 宮沢賢治 「雁の童子」
・・・「午后は第一学年は修身と護身、第二学年は狩猟術、第三学年は食品化学と、こうなっていますがいずれもご参観になりますか。」「さあみんな拝見いたしたいです。たいへん面白そうです。今朝からあがらなかったのが本当に残念です。」「いや、いず・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
・・・ 第一植物性食品の消化率が動物性食品に比して著しく小さいこと。尤も動物性食品には含水炭素が殆んどないからこれは当然植物から採らなければならない。然しながらもし蛋白質と脂肪とについて考えるならば何といっても植物性のものは消化が悪い。単に分・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ 縞の着物を着、小柄で、顔など女のように肉のついた爺は、夜具包みや、本、食品などつめた木箱を、六畳の方へ運び入れてくれた。夫婦揃ったところを見ると、陽子は微に苦笑したい心持になった。薄穢く丸っこいところから、細々したことに好奇心を抱くと・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
・・・でも、お米は副食品とせよという声もきこえていて、切符で配給される米の量がその考えかたに従って計られてゆく傾きだとすると、在来の米の御飯というものへの日本人の気持は根底から変えられてゆかなければならないことともなるのだろう。 今私たちはパ・・・ 宮本百合子 「「うどんくい」」
・・・科学の精神とは、決して食品のカロリー分析の能力ばかりをさしていない。砂糖を食品として科学的に理解するとともに、その砂糖が今日の社会で、どういうありかたをして来ているか、ということについて発見し、それをほんとに民族生活の幸福のために、合理的に・・・ 宮本百合子 「砂糖・健忘症」
・・・そういう選択、判断がなかったらアメリカの貯蔵食品の今日の発達と品質の向上はあり得なかっただろう。 その科学的に分析され綜合的に研究され発達しつくしたあらゆる部門の広告が、日本のように今でさえまだ半封建的な幼稚な資本主義国にもちこまれたと・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
出典:青空文庫