・・・それから社会主義の某首領は蟹は柿とか握り飯とか云う私有財産を難有がっていたから、臼や蜂や卵なども反動的思想を持っていたのであろう、事によると尻押しをしたのは国粋会かも知れないと云った。それから某宗の管長某師は蟹は仏慈悲を知らなかったらしい、・・・ 芥川竜之介 「猿蟹合戦」
・・・畢竟某党の某首領はどう言う帽子をかぶっているかと言うのと大差のない知識ばかりである。 又 所謂「床屋政治家」とはこう言う知識のない政治家である。若し夫れ識見を論ずれば必ずしも政治家に劣るものではない。且又利害を超越した情・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・宗吉が世話になる、渠等なかまの、ほとんど首領とも言うべき、熊沢という、追て大実業家となると聞いた、絵に描いた化地蔵のような大漢が、そんじょその辺のを落籍したとは表向、得心させて、連出して、内証で囲っていたのであるから。 言うまでもなく商・・・ 泉鏡花 「売色鴨南蛮」
・・・苦肉の策を用いて成功したという故智にならい、美男と自称する君にその岡野の役を押しつけ、かの菊屋一家を迷わせて、そのドサクサにまぎれ、大いに菊屋の酒を飲もうという悪い量見から出たところのものであったが、首領の大石が、ヘマを演じてかの現実主義者・・・ 太宰治 「未帰還の友に」
小学時代の先生方から学校教育を受けた外に同学の友達からは色々の大切な人間教育を受けた。そういう友達の中にも硬派と軟派と二種類あって、その硬派の首領株からはだいぶいじめられた。板垣退助を戴いた自由党が全盛の時代であったので、・・・ 寺田寅彦 「鷹を貰い損なった話」
・・・いわんやその国に一個の首領を立て、これを君として仰ぎこれを主として事え、その君主のために衆人の生命財産を空うするがごときにおいてをや。いわんや一国中になお幾多の小区域を分ち、毎区の人民おのおの一個の長者を戴てこれに服従するのみか、つねに隣区・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・という東條英機の芭蕉もじりの発句には、彼の変ることない英雄首領のジェスチュアがうかがわれる。二十五種類の辞句のうちに、ただの一枚も、こころから日本の未来によびかけて、その平和と平安のために美しい、現実的な祝福をあたえたものがない。このことに・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・ 諸新聞には、三土内相その他政党首領たちの言葉として、制限連記制が不適当な方法であったことを強調された。婦人代議士のどっさり出たことも、この不適当な選挙方法の欠陥のあらわれのように語られた。市川房枝女史も、今の日本に三十九名もの婦人代議・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・神々の間にさえ大評判になった。神々の首領であったジュピターはその大変美しい織物上手の娘が好きになった。ジュピターの妻ジュノーの嫉妬がつのって、到頭哀れなアナキネはジュノーのために蜘蛛にさせられてしまった。そんなに織ることがすきなら、一生織り・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・と、まことに鷹揚な首領の返事や「それは落選候補の公約であった」という名回答もありました。 日比谷の放送討論会などの席上では、大変賑やかに食糧事情対策が論ぜられます。野草のたべかたについての講義――云いかえれば、私たち日本の人間が、ど・・・ 宮本百合子 「公のことと私のこと」
出典:青空文庫