・・・壮重な夜あけを凝っと見て居ると、何処かで一声高らかに鶯が囀った。ホーと朗らかに引っぱり、ホケキョと短く濃やかに畳みこむ。其一声の鶯は、東雲のクラシカルな藍と茜の色どりと相俟って、計らずも心のおどるような日本の暁の風趣を私の胸に送りこんだ。同・・・ 宮本百合子 「木蔭の椽」
・・・西欧文学の波にうごかされ、高らかにロマンティシズムの調を謳いつつ、藤村の詩がその第一詩集から形式・用語において過去の日本文学和文派の遺産の上に立っていたことは、自然に身をうちまかせる彼の情緒の本質がやはり自然への逃避の性質を多分にもっていた・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
・・・光君は去りにくい心持になって若しや彼の人の声はしないかしら、童にでも合えばなどとあてどもないことをたよりにしずまった細殿を行ったり来たりして居ると傍の部屋ではしゃいだ女の声で高らかに人の噂をして居るのがハッキリ聞える。「この間の宴の時に・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・と声高らかに合唱しつつ跟いて歩む、日露戦争が終ったばかり頃のことであったから。その百銭は、そうやって持って歩いて鳴らしているうちに、いつかどうかして失くなってしまうのが常であった。暫く忘れていてふと思い出し、いくら考えてもどうなったのか・・・ 宮本百合子 「百銭」
・・・を溢れているのが実際だけれども、それにもかかわらず福沢諭吉が新人の友として高らかにうち鳴らした新しい生活への鐘の余韻が、今日の日本にこのようなものとして現れ得ているところに、私たちの痛切な関心をひく何ものかが隠されていると思う。 私たち・・・ 宮本百合子 「三つの「女大学」」
出典:青空文庫