・・・ その内に思案して、明して相談をして可いと思ったら、謂って見さっせえ、この皺面あ突出して成ることなら素ッ首は要らねえよ。 私あしみじみ可愛くってならねえわ。 それからの、ここに居る分にゃあうっかり外へ出めえよ、実は、」 と声・・・ 泉鏡花 「葛飾砂子」
・・・ 黒い毛氈の上に、明石、珊瑚、トンボの青玉が、こつこつと寂びた色で、古い物語を偲ばすもあれば、青毛布の上に、指環、鎖、襟飾、燦爛と光を放つ合成金の、新時代を語るもあり。……また合成銀と称えるのを、大阪で発明して銀煙草を並べて売る。「・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・ 十九 小宮山は早速嗽手水を致して心持もさっぱりしましたが、右左から亭主、女共が問い懸けまする昨晩の様子は、いや、ただお雪がちょいと魘されたばかりだと言って、仔細は明しませんでございました、これは後の事を慮って、・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
一あれあれ見たか、 あれ見たか。二つ蜻蛉が草の葉に、かやつり草に宿をかり、人目しのぶと思えども、羽はうすものかくされぬ、すきや明石に緋ぢりめん、肌のしろさも浅ましや、・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・それである歴史家がいうたに「イギリス人の書いたもので歴史的の叙事、ものを説き明した文体からいえば、カーライルの『フランス革命史』がたぶん一番といってもよいであろう、もし一番でなければ一番のなかに入るべきものである」ということであります。それ・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・また眼を転じて此方を見ると、ちら/\と漁火のように、明石の沿岸の町から洩れる火影が波に映っている。 歩いて須磨へ行く途中、男がざるに石竹を入れて往来を来るのに出遇った。見たことのないような、小さな、淡紅い可愛らしい花が咲いていた。また、・・・ 小川未明 「舞子より須磨へ」
・・・燃ゆる時は一間のうちしばらく明し。翁の影太く壁に映りて動き、煤けし壁に浮かびいずるは錦絵なり。幸助五六歳のころ妻の百合が里帰りして貰いきしその時粘りつけしまま十年余の月日経ち今は薄墨塗りしようなり、今宵は風なく波音聞こえず。家を繞りてさらさ・・・ 国木田独歩 「源おじ」
・・・と椅子のことから説明しようと思う。「テーブル」というは粗末な日本机の両脚の下に続台をした品物で、椅子とは足続ぎの下に箱を置いただけのこと。けれども正作はまじめでこの工夫をしたので、学校の先生が日本流の机は衛生に悪いといった言葉をなるほどと感・・・ 国木田独歩 「非凡なる凡人」
・・・おふくろが満足したのは、トシエが二タ棹の三ツよせの箪笥に、どの抽出しへもいっぱい、小浜や、錦紗や、明石や、――そんな金のかかった着物を詰めこんで持って来たからである。虹吉が満足したのは、彼の本能的な実弾射撃が、てき面に、一番手ッ取り早く、功・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・そのひとの背後には、明石を着た中年の女性が、ひっそり立っている。呆れましたか。どうも私の空想は月並みで自分ながら閉口ですが、けれども私は本気で書いてみたのです。近代の芸術家は、誰しも一度は、そんな姿と大同小異の影像を、こっそりあこがれた事が・・・ 太宰治 「風の便り」
出典:青空文庫