・・・こんな慌しい書き方をした文章でも、江口を正当に価値づける一助になれば、望外の仕合せだと思っている。 芥川竜之介 「江口渙氏の事」
・・・夫婦の仲も、まず円満、と言ってよい状態であった。一女をもうけ、玻璃子と名づけた。パリイを、もじったものらしい。惣兵衛氏は、ハイカラな人である。背の高い、堂々たる美男である。いつも、にこにこ笑っている。いい洋画を、たくさん持っている。ドガの競・・・ 太宰治 「水仙」
・・・父は、もともと、家庭教師を呼ぶ事には反対だったのですが、沢田先生のおくらしの一助という名目に負けて、おいでを願う事にしていたのであって、まさか、そんな無責任な綴方教育を授けているとは思いも寄らず、毎週いちど、少しは和子の学課の勉強の手伝いを・・・ 太宰治 「千代女」
・・・一男一女をもうけた。勝治と、節子である。その事件のおこった時は、勝治二十三歳、節子十九歳の盛夏である。 事件は既に、その三年前から萌芽していた。仙之助氏と勝治の衝突である。仙之助氏は、小柄で、上品な紳士である。若い頃には、かなりの毒舌家・・・ 太宰治 「花火」
・・・ 以上の譬喩は拙ではあるが、ルクレチウスが現代科学に対して占める独特の位地を説明する一助となるであろう。 誤解のないために繰り返して言う。ルクレチウスのみでは科学は成立しない。しかしまたルクレチウスなしには科学はなんら本質的なる進展・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
・・・故に世上有志の士君子が、その郷里の事態を憂てこれが処置を工夫するときに当り、この小冊子もまた、或は考案の一助たるべし。一、旧藩地に私立の学校を設るは余輩の多年企望するところにして、すでに中津にも旧知事の分禄と旧官員の周旋とによりて一校を・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・各地方小学教師のために備考の一助ともならば幸甚のみ。 小学教育の事 二 平仮名と片仮名とを較べて、市在民間の日用にいずれか普通なりやと尋れば、平仮名なりと答えざるをえず。男女の手紙に片仮名を用いず。手形、証文、受取書に・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・も、婦人の私に自力自立の覚悟あれば、夫婦相対して夫に求むることも少なく、之を求めて得ざるの不平もなく、筆端或は皮肉に立入りて卑陋なるが如くなれども、其これを求めざるは両者の間に意見の衝突を少なくするの一助たる可し。古語に衣食足りて礼譲興ると・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・産児制限と国の工業化が解決の一助だろう」。重ねて鈴木文史朗は「大家族をもっている月給取りは子供の少い上役より月収が多い。これは一面子供多産の奨励のようなものだ」といっているのである。読売新聞の時評はいち早くこの卓見に同調して、労働者に家族手・・・ 宮本百合子 「鬼畜の言葉」
・・・を問題作とする一助となり、モデルであると名のり出た人々を脚燈の前に立たせた。 センセーショナリズムに対して抵抗を失った風俗文学の条件反射は、人情と芸大事の宗匠、里見や久保田万太郎などまでをいつかその創作のモティーヴのとらえかたにおいて影・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
出典:青空文庫