・・・俳優としてよりむしろライナーの富、華麗、社交性、女としての日常性があすこで一閃するが如き強烈な印象を与えるのである。映画全体として、これは一つの大きい破綻のモメントである。監督フランクリンがそれに心付いていまい。そのことにもまたこの監督の身・・・ 宮本百合子 「映画の語る現実」
・・・うっとり見ていると肉体がいつの間にか消え失せ、自分まで燃え耀きの一閃きとなったように感じる。甘美な忘我が生じる。 やがて我に還ると、私は、執拗にとう見、こう見、素晴らしい午後の風景を眺めなおしながら、一体どんな言葉でこの端厳さ、雄大な炎・・・ 宮本百合子 「この夏」
・・・といって、あれほど演説した婦人代議士は今日の物価に対して、はたしてその一銭でも安くする力をもったでしょうか。日本の忍耐づよいいく百万の女性たちはこの点をよくよく思いかえしてみなければならないと思います。インフレーションの悪化は防ぎようもなく・・・ 宮本百合子 「今度の選挙と婦人」
・・・かりに男八時間女八時間の社会的な勤労に対して、男と女とが一銭の差のない報酬を獲る社会があったとして、ではそれでそこには欠けることない両性の明るくゆたかな生活が創られているといえるのだろうか。 世界じゅうの婦人がおびただしく社会的な活動に・・・ 宮本百合子 「女性の現実」
・・・しかし文学の実質は低下の一線をたどった。戦争遂行目的のために作家と文学の動員されることはますますはげしくなって「文芸家協会」は「文学報国会」となり、作家のある人々は、積極的に報道員となって中国に行った。日本の戦争の侵略的な帝国主義の本質とそ・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・しゃぼんを一銭まけさせたと手柄顔に話す。 帰る時にミノルカが生んだのだと云う七面鳥の卵ほど大きい卵を二つくれた。東京ではとうてい見たくとも見られるものではない。大いそぎで勘定をすませたお繁婆は私のあとから追掛けて来て、「御邪魔に・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・ また文学戦線の問題も歴史的推進力を明瞭にしながら人権を守るという点をはっきりして、よりよく生きる可能の向上としておしすすめることで、民主的なものについて最後の線を守ることで前線に立つという最後の一線がなくてはならず、どなたもおいでなさ・・・ 宮本百合子 「批評は解放の組織者である」
・・・、作家の大衆に対する文化的指導性を自身の社会性についての省察ぬきに自認している点、及び、所謂俚耳に入り易き表現ということを、便宜的に大衆的という云い方でとりあげていて、従来の通俗文学との間に、画すべき一線のありやなしやを漠とさせている点等に・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
・・・ 永遠な、過去と未来とを縦に貫く一線は、又、無辺在な左右を縫う他の一線と、此の小さい無力な私の上に確然と交叉して居るのを感じずには居られないのである。 斯うやって考えて来ると、私は、今日の生活が、如何に「智」に不足して居るかを思わず・・・ 宮本百合子 「無題」
出典:青空文庫