・・・役人は、ますますさかんに、れいのいやらしい笑いを発して、厚顔無恥の阿呆らしい一般概論をクソていねいに繰りかえすばかり。民衆のひとりは、とうとう泣き声になって、役人につめ寄る。 寝床の中でそれを聞き、とうとう私も逆上した。もし私が、あの場・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・私にも、責任の一半を持たせて下さい。注射しなけれあいいんでしょう?」「いいえ、保証人から全快までは、と厳格にたのまれてあります。」ただ、飼い放ち在るだけでは、金魚も月余の命、保たず。いつわりでよし、プライドを、自由を、青草原を! 尚、こ・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・それにもかかわらずレニンのえらさは一般の世人に分りやすい種類のものである。取扱っているものが人間の社会で、使っているものが兵隊や金である。いずれも科学的には訳の分らないものであるが、ただ世人の生活に直接なものであるだけに、事柄が誰にも分りや・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・ 雷電の怪物が分解して一半は科学のほうへ入り一半は宗教のほうへ走って行った。すべての怪異も同様である。前者は集積し凝縮し電子となりプロトーンとなり、後者は一つにかたまり合って全能の神様になり天地の大道となった。そうして両・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・私の思考実験の一半はすでに現実化されたようでもあるが、残る半分すなわち日刊の廃止という事はちょっと実現される蓋然性が乏しい。 しかし旬刊週刊等の発行によって個人個人にこの実験を不完全ながらも遂行する事が可能になったように見える。すなわち・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・もちろんパラソルにかくれた顔がだれだからというのではなくて、若い女一般にたいしてはずかしい。乞食のような風ていも、竹びしゃくつくりもはずかしい。「けがしたかい?」 そばにならんですわって、竹ばしをけずっている母親が、びっくりしてきく・・・ 徳永直 「白い道」
・・・しかし概して西洋種の草花の一般によろこび植えられるようになったのは、大正改元前後のころからではなかろうか。 わたくしが小学生のころには草花といえばまず桜草くらいに止って、殆どその他のものを知らなかった。荒川堤の南岸浮間ヶ原には野生の桜草・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・この型を以て未来に臨むのは、天の展開する未来の内容を、人の頭で拵えた器に盛終せようと、あらかじめ待ち設けると一般である。器械的な自然界の現象のうち、尤も単調な重複を厭わざるものには、すぐこの型を応用して実生活の便宜を計る事が出来るかも知れな・・・ 夏目漱石 「イズムの功過」
・・・ かく消極的に活力を節約しようとする奮闘に対して一方ではまた積極的に活力を任意随所に消耗しようという精神がまた開化の一半を組み立てている。その発現の方法もまた世が進めば進むほど複雑になるのは当然であるが、これをごく約めてどんな方面に現わ・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・と手もなく説明するので、余の空想の一半は倫敦塔を見たその日のうちに打ち壊わされてしまった。余はまた主人に壁の題辞の事を話すと、主人は無造作に「ええあの落書ですか、つまらない事をしたもんで、せっかく奇麗な所を台なしにしてしまいましたねえ、なに・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
出典:青空文庫