・・・ 明治以来今日まで日本文学を押しすすめて来た文学への責任が、一半は婦人の肩にもかかっているものだと男の作家によって思われた時代が嘗ていつ在っただろうか。そういう全体の歴史への意味での責任を自身の文学に感じて仕事を貫いたという婦人作家があ・・・ 宮本百合子 「文学と婦人」
・・・ なぜなら、妻は結婚生活において、夫の道義的生活にたいしても密接な関係をもち、責任の一半を負っているのであるから。 道義の頽廃は、家庭婦人のきよらかさを濁らしている。いわゆる良家の主婦たちがむすめやむすこと一しょに、それをエロ・グロ・・・ 宮本百合子 「民法と道義上の責任」
・・・家中一般の噂じゃというから、おぬしたちも聞いたに違いない。この弥一右衛門が腹は瓢箪に油を塗って切る腹じゃそうな。それじゃによって、おれは今瓢箪に油を塗って切ろうと思う。どうぞ皆で見届けてくれい」 市太夫も五太夫も島原の軍功で新知二百石を・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・そこで、感覚と新感覚との相違であるが、新感覚は、その触発体としての客観が純粋客観のみならず、一切の形式的仮象をも含み意識一般の孰れの表象内容をも含む統一体としての主観的客観から触発された感性的認識の質料の表徴であり、してその触発された感性的・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・ このことは歴史画のみならず、一般に複雑な情緒や事件を現わす画についても言える。ある特殊な情緒に動いている人間の顔などは、モデルに頼ることができぬ。実生活のあるきわどい瞬間に画家の眼に烙きついた印象を生かすほかはないのである。そうしてそ・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
出典:青空文庫