・・・元来これは絵画の領域に属するもので、絵画の上ではあらゆる物象だの、影だのを色彩で以て平たい板の上に塗るので、時間的に事件を語っているものではない。併し、それが最近の色彩派になって来ると、絵画が動くようなところに進んでいると思う。 例えば・・・ 小川未明 「動く絵と新しき夢幻」
・・・文芸ばかりでなく、絵画に於てもそうであるが、たゞその形とか色とか、乃至は題材とか技巧とか、そういった外面的のものにはそれ自身に本当の感激を与える力はないものだ。我々が本当の感激をうけるのは、それらのものゝ背後に潜んでいる、作者自身の精神によ・・・ 小川未明 「囚われたる現文壇」
・・・ 小僧は怪訝な顔をして、「俺はそんなとこを見たことはねえよ。だって、あれからまだ一度も来たのは知らねえもの」「本当か?」「ああ、本当に!」「そんなはずはねえがな」と若衆は小首を傾げたが、思い出したように盤台をゴシゴシ。 ・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・しかし、この色は絵画的な定着を目的とせず、音楽的な拡大性に漂うて行くものでなければならず、不安と混乱と複雑の渦中にある人間を無理に単純化するための既成のモラルやヒューマニズムの額縁は、かえって人間冒涜であり、この日常性の額縁をたたきこわすた・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・その兄が、その夏に、東京の同人雑誌なるものを、三十種類くらい持って来て、そうしてその頃はやりの、突如活字を大きくしたり、またわざと活字をさかさにしたり、謂わば絵画的手法とでもいったようなものを取りいれた奇妙な作品に、やたらに興じて、「これか・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・葡萄の一かご、書籍、絵画、その他のお土産もっていっても、たいてい私は軽んぜられた。わが一夜の行為、うたがわしくば、君、みずから行きて問え。私は、住所も名前も、いつわりしことなし。恥ずべきこととも思わねば。 私は享楽のために、一本の注・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・ 絵画には全く無関心だそうである。四元の世界を眺めている彼には二元の芸術はあるいはあまりに児戯に近いかもしれない。万象を時と空間の要素に切りつめた彼には色彩の美しさなどはあまりに空虚な幻に過ぎないかもしれない。 三元的な彫刻には多少・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・文学は文字の発明以前から語りものとして伝わり、絵画彫刻は洞壁や発掘物の表面に跡をとどめている。音楽舞踊はいかなる野蛮民族の間にも現存する。建築や演劇でも、いずれもかなりな灰色の昔にまでその発達の径路をさかのぼる事ができるであろう。マグダレニ・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・ この種類の映画で吾々に特に興味のあるのは、従来はただ書物や少数の絵画版画などを通じて窺っていた「昔の西洋」が吾々の眼前に活きて進行することである。「駅逓馬車」による永い旅路の門出の場面などでも、こうした映画の中で見ていると、いつの間に・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
・・・その時宅から持って行った葡萄酒やベルモットを試みに女中の親父に飲ませたら、こんな珍しい酒は生れて始めてだと云ってたいそう喜んだが、しかしよほど変な味がするらしく小首を傾けながら怪訝な顔をして飲んでいた。そうして、そのあとでやっぱり日本酒の方・・・ 寺田寅彦 「海水浴」
出典:青空文庫