・・・身を思い国を思う者は、深く自ら省みる所なかるべからざるなり。「日本男子論」の一編、その言既に長く、真正面より男子の品行を責めて一毫も仮さず、水も洩らさぬほどに論じ詰めたることなれば、世間無数疵持つ身の男子はあたかも弱点を襲われて遁るるに・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・をどんな目にあわせることになったか、また、自分なんかは、と測定した個々の人の文学の才能や人生への確信を、どんな過程で崩壊させていったかという事実を顧みると、惨澹たるものがある。 野蛮な権力は、文学面で狙いをつけた一定の目標にむかって、ほ・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
・・・ けれども、飾ない落付いた目で省みると、この読者層の質の推移ということの実際は、昨今急速にその人たちのことから私たちのことにまで拡がって来ているのではなかろうか。作家・評論家はそれぞれ各々の読者をもっている。読者というものをその関係の範・・・ 宮本百合子 「今日の作家と読者」
・・・そのいりくんだ縦横のいきさつを明瞭に理解するために、私たちは一応過去にさかのぼって、この三四年来日本の文学が経て来た道のあらましを顧みることが便利であろうと思う。 既に知られているとおり、日本の一般的な社会情勢は昭和六年の秋、満州事変と・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・だが、それが生活と呼ぶにふさわしい内容を持っているかどうかという点を省みると、そこに知性の問題があるのだと思われる。 生活のなかで試され、鍛えられつつ生活にその力を及ぼしてゆく人間の知性は、普通なものであると同時に各々その人々に属した動・・・ 宮本百合子 「知性の開眼」
・・・ 当時より更に数年前にさかのぼってプロレタリア文学時代を顧みると、この時代には、批判の精神というものはこの文学における独自な性格である自己の存在意義への歴史的な確信と主動性とともに極めて溌剌と動いた。けれども、文芸理論としての若さから、・・・ 宮本百合子 「文学精神と批判精神」
・・・ 昔の外国のロマンチシズムの時代を顧みるとなかなか興味のあることは、抽象名詞が雄飛した割合に、作品で後にのこるものがないことである。明日の日本の文学が雄大なものであるためには、今日の生活の現実に徹しなければならず赫々たるものに対してはま・・・ 宮本百合子 「文学の流れ」
・・・ ここで私共は、一つの驚きを以て顧みる。日本の憲法というものは、何と外国の憲法と性質の異ったものであるかということである。憲法というものは、何処の国でも、支配者の大権と共に人民の権利をも規定したものであり、民主主義の発達した国であればあ・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・永遠に渇している目には、またこの箸を顧みる程の余裕がない。 娘は驚きの目をいつまで男の顔に注いでいても、食べろとは云って貰われない。もう好い頃だと思って箸を出すと、その度毎に「そりゃあ煮えていねえ」を繰り返される。 驚の目には怨も怒・・・ 森鴎外 「牛鍋」
・・・そのときは親は子を顧みることが出来ず、子も親を顧みることが出来ない。それは海辺の難所である。また山を越えると、踏まえた石が一つ揺げば、千尋の谷底に落ちるような、あぶない岨道もある。西国へ往くまでには、どれほどの難所があるか知れない。それとは・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
出典:青空文庫