・・・プロレタリア文学の伝承を忌避したがる一部の人々があるが今日力をつくして拒否すべきものは、文学運動までをああいう目にあわせた兇暴な治安維持法の変形した再登場である。わたしたちが人間として自然にもつ恐怖を主張し、その原因たる悪権力を克服しようと・・・ 宮本百合子 「プロレタリア文学の存在」
・・・帝国主義戦争強行のため、日本の封建的専制支配が革命運動に対して、今日ほど兇暴であったことはない。失業、農村の飢餓に苦しむ大衆の革命力の深刻な高揚とそれに対する支配階級の恐怖は、プロレタリア文化団体に対してのうちつづく暴圧、白テロにまざまざと・・・ 宮本百合子 「文学に関する感想」
・・・苦痛が嵩じて「一種冷やかな狂暴に生れ変って来ると、今度は若い」ゴーリキイ自身が「獣のように荒れくるった。そして後から胸の痛い程恥しく思う。」 心に痛みをもってゴーリキイは店から抜け出し、悠大なヴォルガの落日を眺めた。本で知った他の都会の・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
彼と別れて居ると云う事は、日を経るに連れて、一層辛いものに成って来た。 二人が一緒に居た時には、彼女自身に想像も出来なかった、何かひどく狂暴な力が、嵐のように捲起って、時には、一夜の安眠をさえ与えない程、若い健な、豊饒・・・ 宮本百合子 「無題(三)」
・・・すなわち、警官隊の野蛮な襲撃や、検挙された学生が数百名にのぼることを、さも日本の学生が兇暴なものになってしまいでもしたように世界を偽瞞するための宣伝に使用しています。 われわれを、こんにち、心からいきどおらせているのは、権力機関のす・・・ 宮本百合子 「若き僚友に」
・・・平和に対する世界の努力を、暴力的に破壊させる切掛を合図し合うための同盟を結んだ三国は、西に東に兇暴な力を揮い始めた。そしてヨーロッパが戦禍に陥った機会に乗じ、日本は更に手を伸ばして真珠湾、南洋諸島、東亜諸国に侵略を始めた。 人が重い病気・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・丁度、美術愛好者が、古代ギリシャ建築の明美な柱列を見た時、心を打れ、何はともあれ、アカンサスの葉で飾られた精緻な柱頭と、単純で力強い柱台とに注意を向けた如く、学徒が、狂暴な程、雑多な原質の目覚める青年期、不思議に還元的色彩を帯びる更年期を特・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
・・・最も狂暴なタイラントや最も放恣な遊蕩児のしそうなことまでも。もちろん私は気づくとともにそれを恥じ自分を責めます。しかし一度心に起こった事はいかに恥じようとも全然消え去るという事がありません。時には私は自分の心が穢ないものでいっぱいになってい・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
出典:青空文庫