・・・蓋し男女交際法の尚お未熟なる時代には、両性の間、単に肉交あるを知て情交あるを知らず、例えば今の浮世男子が芸妓などを弄ぶが如き、自から男女の交際とは言いながら、其調子の極めて卑陋にして醜猥無礼なるは、気品高き情交の区域を去ること遠し。仮令い直・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・ 前年外国よりある貴賓の来遊したるとき、東京の紳士と称する連中が頻りに周旋奔走して、礼遇至らざる所なきその饗応の一として、府下の芸妓を集め、大いに歌舞を催して一覧に供し、来賓も興に入りて満足したりとの事なりしが、実をいえばその芸妓なる者・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・つまりピリニャークの文章は気取っていて面白いかも知れないが、日本という国の実際はあれには描かれていないし、女である私からみればピリニャークが芸妓というものを他のヨーロッパの作家でもそう思うであろうように、大変幻想的な美しさにみちたものとして・・・ 宮本百合子 「私の会ったゴーリキイ」
・・・しかし放蕩者のうちに右のごとき貧弱な享楽人の多いことは疑えない。芸妓の芸が音曲舞踊の芸ではなくして枕席の技巧を意味せられる時代には、通人はもはや昔のように優れた享楽人であることを要しないのである。 享楽の能力が豊富であるとは、物象に現わ・・・ 和辻哲郎 「享楽人」
出典:青空文庫