-
・・・ なお仏師から手紙が添って――山妻云々とのお言、あるいはお戯でなかったかも存ぜぬが、……しごとのあいだ、赤門寺のお上人が四五度もしばしば見えて、一定それに擬え候よう、御許様のお母様の俤を、おぼろげならず申伝えられましたるゆえ――とこの趣・・・
泉鏡花
「夫人利生記」
-
・・・ チョンチョンと下足札を鳴らすが、小屋は満員で、騒然としていて、顔役は、まがい猟虎の襟付外套で股火をし、南京豆の殼が処嫌わず散らかっているだけだ。山塞の頭になった役者が粗末な舞台で、「ええ、きりきりあゆめえ!」と声を搾って大見得・・・
宮本百合子
「山峡新春」