・・・「その方はアツレキ三十一年二月七日、伊藤万太方の八畳座敷に故なくして擅に出現したることは、しかとその通りに相違ないか。」「全く相違ありません。」「出現後は何を致した。」「ザシキをザワッザワッと掃いて居りました。」「何の為・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・そして車の中の一人の女はしかと両側を握って身体の揺れるのを防いでいる。 ゴーデルヴィルの市場は人畜入り乱れて大雑踏をきわめている。この群集の海の表面に現われ見えるのは牛の角と豪農の高帽と婦人の帽の飾りである。喚ぶ声、叫ぶ声、軋る声、相応・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・ ここは湯気が一ぱい籠もっていて、にわかにはいって見ると、しかと物を見定めることも出来ぬくらいである。その灰色の中に大きい竈が三つあって、どれにも残った薪が真赤に燃えている。しばらく立ち止まって見ているうちに、石の壁に沿うて造りつけてあ・・・ 森鴎外 「寒山拾得」
・・・飯のそえものに野菜煮よといえば、砂糖もて来たまいしかと問う。棒砂糖少し持てきたりしが、煮物に使わんこと惜しければ、無しと答えぬ。茄子、胡豆など醤油のみにて煮て来ぬ。鰹節など加えぬ味頗旨し。酒は麹味を脱せねどこれも旨し。燗をなすには屎壺の形し・・・ 森鴎外 「みちの記」
出典:青空文庫