・・・この土地で奴僕の締める浅葱の前掛を締めている。男は響の好い、節奏のはっきりしたデネマルク語で、もし靴が一足間違ってはいないかと問うた。 果して己は間違った靴を一足受け取っていた。男は自分の過を謝した。 その時己はこの男の名を問うたが・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・そうしてそこで中心的な地位を占めるのは、自敬の念なのである。おのれが臆病であることは、おのれ自身において許すことができぬ。だからおのれ自身のなかから、死を怖れぬ心構えが押し出されてくる。そういう人にとっておのれの面目が命よりも貴いのは、外聞・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・文化の上から言っても蓮華の占める位置は相当に大きい。日本人に深い精神的内容を与えた仏教は、蓮華によって象徴されているように見える。仏像は大抵蓮華の上にすわっているし、仏画にも蓮華は盛んに描かれている。仏教の祭儀の時に散らせる華は、蓮華の花び・・・ 和辻哲郎 「巨椋池の蓮」
出典:青空文庫