・・・まだまだ生活の実際では主食のことから住居のことからまったく自由でない苦しい生活のなかで、その苦しさと闘いながらすこしでも苦しさの原因となっている今日の社会の矛盾を改善してゆこうと努力する若い婦人であるならば、恋愛の相手としてヤミ屋の親分がえ・・・ 宮本百合子 「生きるための恋愛」
・・・ 今私たちはパンも馬鈴薯もさつまいもも買えずにいるから、米を副食としてときくと、では主食品はどんな風に手に入れられるのだろうという、ぼんやりした当惑も感じるのである。 昔ながらの意味で米に執着する習慣は、この頃の現実で次第に変って来・・・ 宮本百合子 「「うどんくい」」
年の暮れに珍しくお砂糖の配給があった。一人前三〇グラムを主食三三グラムとひきかえに、十匁を砂糖そのものの配給として配給され、久々であまいもののある正月を迎えた。お米とひきかえではねえ、と云いながら、砂糖を主食代りに配給され・・・ 宮本百合子 「砂糖・健忘症」
「電燈料がまたあがるかね」 ほんとにしようがないわねえ。「新聞でね、東畑博士がいっていますよ、日本の主食は三百万トン外国から買えば、芋ぬきで二合七勺配給になるのに、政府は三百七十五万トン輸入しようとしている。これは制・・・ 宮本百合子 「しようがない、だろうか?」
・・・にして政府の主食糧強制買上に反対の気勢を上げた。農民の、分厚い肩が重なって、話をきいている写真が、のっている。 昨今の日本では、数日うちに、事態がどしどしと推移してゆく。私たちも、それに馴れて来ている。しかし、この板橋での出来ごとや強制・・・ 宮本百合子 「人民戦線への一歩」
・・・日本は、壊滅の一歩手前に追いこまれた。主食補助のやみの米が一升二七〇円している。戦争がほんとうにおそろしいのは、空から焼夷弾、爆弾の降って来る最中よりも、むしろ戦後破滅からの回復が困難であることである。日本のように、自分の国の天然資源が少い・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
・・・ちょうど、みかんは主食にならないけれど、みかんのヴィタミンは、身体にいいと知っていたように。ところが、こんにち谷崎、荷風のものなら「闇屋が買うから」といわれていることには、おのずからちがった意味がある。 作家が自分の本をいつ、誰に、何処・・・ 宮本百合子 「文化生産者としての自覚」
・・・彼方に、修繕で船体を朱色に塗りたくられた船が皮膚患者のように見えた。鴎がその檣のまわりを飛んだ。起重機の響……。 ダーリヤの、どこまでも続く思い出を突然断ち切るように、階下で風に煽られたように入口が開いた。「あら、これ、家の娘さんで・・・ 宮本百合子 「街」
・・・筆がにぶるといつもやわらかい手が自分の手を持ちそえるような気持がして早く、かるく、美くしく筆が動くんでした。手燭をもって母が入って来ました。母「貴方まだ書くんですか、つかれて居るんでしょう、もうおやすみなさい、私ももうねますからネ、また・・・ 宮本百合子 「無題(一)」
・・・ 米というものが、日本では大体みんな食べているもの、という心やすい食物から、だんだん不足な食糧、増産のいる主食、配給不足の命の綱、闇米とおそろしいものに変りつつあった時期である。その時期に、日本ではじめて農民の勤労姿が、郵便切手の上にう・・・ 宮本百合子 「郵便切手」
出典:青空文庫