・・・その方づれ如き、小乗臭糞の持戒者が、妄に足を容るべきの仏国でない。」 こう云って阿闍梨は容をあらためると、水晶の念珠を振って、苦々しげに叱りつけた。「業畜、急々に退き居ろう。」 すると、翁は、黄いろい紙の扇を開いて、顔をさしかく・・・ 芥川竜之介 「道祖問答」
・・・ブルジョアジーの生活圏内に生活したものは、誰でも少し考えるならば、そこの生活が、自壊作用をひき起こしつつあることを、感じないものはなかろう。その自壊作用の後に、活力ある生活を将来するものは、もとよりアリストクラシーでもなければ、富豪階級でも・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・この小品の作者御自身と無理矢理きめてしまって、いわば女房コンスタンチェの私は唯一の味方になり、原作者が女房コンスタンチェを、このように無残に冷たく描写している、その復讐として、若輩ちから及ばぬながら、次回より能う限り意地わるい描写を、やって・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・われながら呆れて、再び日頃の汚濁の心境に落ち込まぬよう、自戒の厳粛の意図を以て左に私の十九箇条を列記しよう。愚者の懺悔だ。神も、賢者も、おゆるし下さい。 一、世々の道は知らぬ。教えられても、へんにてれて、実行せぬ。 二、万ずに依怙の・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・葦の自戒 その一。ただ、世の中にのみ眼をむけよ。自然の風景に惑溺して居る我の姿を、自覚したるときには、「われ老憊したり。」と素直に、敗北の告白をこそせよ。 その二。おなじ言葉を、必ず、二度むしかえして口の端に出さぬこと。・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・姓はペン渾名は bedge pardon なる聖人の事を少しく報道しないでは何だか気がすまないから、同君の事をちょっと御話して、次回からは方面の変った目撃談観察談を御紹介仕ろう。そもそもこのペンすなわち内の下女なるペンになぜ我輩がこの渾名を・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・これらの大勢の婦人代議士の中で、日本の民主化と人民生活の向上、そのことからもたらされる婦人の社会生活の改善のために、次回も当選してほしいと希望される人は何人あるでしょう。 一年間の最も雄弁な教訓は、これ等の婦人代議士が女は女の生活をよく・・・ 宮本百合子 「今度の選挙と婦人」
・・・ 日本が民主的自主的政治の能力を示して、世界に、自立的民族として存続する可能性の十分あることを示すか、或は、蒙昧な反動国として、民主的世界によって飽くまで監視されなければならない立場に置かれるか。次回の総選挙は、そういう意味で極めて重大・・・ 宮本百合子 「逆立ちの公・私」
・・・一定の自戒をもち、それを守ることそのものを生活の目的のようにして生きている梅雄に友人団が「ただ君の情熱は中ぶらりんで方向がないね」といい、作者はその評言の社会的な正当性を認めている。丁度その評言の真只中に全篇の終りは曲線を描いて陥りこんでし・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・、やむを得ない応急的なあわただしさの反面に、日本の文化はもっともっと落着いて、蘊蓄を深く、根底から確乎とした自身の発展的推進力を高めて行かなければ、真に世界文化の水準に到達することは困難である、という自戒を感じているのではないかと思う。・・・ 宮本百合子 「「どう考えるか」に就て」
出典:青空文庫