・・・科学者がある物質を強い電場や磁場に置いてみたり、ある昆虫を真空や高圧の中にいれてみたりする。それと同じような意味での実験をした、その実験の結果の報告がこの映画であるというふうにも見られる。あるいは、もう少し厳密にいえば、かりにそういう実験を・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・しかし加速度となると時間の自乗に逆比例するから時間のほうが二倍に延びれば加速度は四分の一になる。それで、たとえば煙突の崩壊する光景の映画を半分の速度で映写すると、それは地球の四分の一の質量を有する遊星の上での出来事であるかのように見えるので・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・と命名した球形の電磁石がつり下がっており、他の一方には陰極が插入されていて、そこから強力な陰極線が発射されると、その一道の電子の流れは球形磁石の磁場のためにその経路を彎曲され、球の磁極に近い数点に集注してそこに螢光を発する。その実験装置のそ・・・ 寺田寅彦 「B教授の死」
・・・その時この電場の運動のためにいわゆる磁場が起る、電流の通ずる針金の周囲に磁場を生じるのはすなわちこれである。かくのごとくして起る電磁場は一種の惰性を有する事が実験上から知られる、すなわち荷電体を動かし始める時には動くまいとし、動いているのを・・・ 寺田寅彦 「物質とエネルギー」
・・・また地球磁場等の影響はこれに偶力を及ぼす事になる。その磁場は諸天体にも感応し反対に諸天体の磁場もまたこれに影響する。仮りに周囲や天体の荷電や付磁がことごとく恒同で既知であっても事柄は複雑であるのに、いわんやこれら相互の位置状態の変化から生ず・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・もしも重力が距離の自乗に反比例せずして距離自身に比例するのであったら結果は収斂しないのである。 もし物質間の引力が距離によらず同一であったり、あるいは距離の大なるほど大であったと仮定したら、天地万物の運動はすべて人間には端倪する事の出来・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・もし事情が許せば、静かなこの町で隠逸な余生を楽しむ場合、陽気でも陰気でもなく、意気でも野暮でもなく、なおまた、若くもなく老けてもいない、そしてばかでも高慢でもない代りに、そう悧巧でも愚図でもないような彼女と同棲しうるときの、寂しい幸福を想像・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・で、その原因事情はいずれにもせよ、大審院の判決通り真に大逆の企があったとすれば、僕ははなはだ残念に思うものである。暴力は感心ができぬ。自ら犠牲となるとも、他を犠牲にはしたくない。しかしながら大逆罪の企に万不同意であると同時に、その企の失敗を・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・当節の文学雑誌の紙質の粗悪に植字の誤り多く、体裁の卑俗な事も、単に経済的事情のためとのみはいわれまい……。 閑話休題。妾宅の台所にてはお妾が心づくしの手料理白魚の雲丹焼が出来上り、それからお取り膳の差しつ押えつ、まことにお浦山吹きの一場・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・また階級もなくなる交通も便利になる、こういう色々な事情からついに今日の如き思想に変化して来たのであります。 道徳上の事で、古人の少しもゆるさなかったことを、今の人はよほど許容する、我儘をも許す、社会がゆるやかになる、畢竟道徳的価値の変化・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
出典:青空文庫