・・・ 次の間の長火鉢で燗をしながら吉里へ声をかけたのは、小万と呼び当楼のお職女郎。娼妓じみないでどこにか品格もあり、吉里には二三歳の年増である。「だッて、あんまりうるさいんだもの」「今晩もかい。よく来るじゃアないか」と、小万は小声で・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・二人は如露の手をやめて、しばらくだまって顔を見合せたねえ、それからペムペルが云った。『ね、行って見ようよ、あんなにいい音がするんだもの。』 ネリは勿論、もっと行きたくってたまらないんだ。『行きましょう、兄さま、すぐ行きましょう。・・・ 宮沢賢治 「黄いろのトマト」
・・・そしてべったり椅子へ坐ってしまいました。わたくしはわらいました。「よくいろいろの薬の名前をご存知ですな。だれか水を持ってきてください。」ところがその水をミーロがもってきました。そして如露でシャーとかけましたのでデストゥパーゴは膝から・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・ あてどもなく二人は歩き廻って夜が更けてから家に帰った、ポーッとあったかい部屋に入るとすぐ女はスルスルと着物をぬいで白縮緬に女郎ぐもが一っぱいに手をひろげて居る長襦袢一枚になって赤味の勝った友禅の座布団の上になげ座りに座った。浅黄の衿は・・・ 宮本百合子 「お女郎蜘蛛」
・・・吉原の公娼制度が廃止されることは、健全な結婚の可能性が我々の生きる今日の社会条件の中に増大されたのではなくて、多額納税議員をもその中から出している女郎屋の楼主たちが、昨今の情勢で営業税その他を課せられてまでの経営は不利と認めたからである。・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・ 工場で十三時間の労働をしている大衆にとって、また、山ゴボーの干葉を辛うじて食べて娘を女郎に売りつつある窮乏農民にとって、この「紋章」は今日何のかかわりがあるであろうか。そういう感想は全く自然に起るし、いまさらびっくりするほどインテ・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・ その時刻、ミーチャは、幼稚園で、朝日のさす窓の前へ如露を持って立っていた。水は光って、転がって、鉢の西洋葵の芽生を濡した。〔一九三一年三月〕 宮本百合子 「楽しいソヴェトの子供」
・・・ 参照 其一 魚玄機三水小牘 南部新書太平広記 北夢瑣言続談助 唐才子伝唐詩紀事 全唐詩全唐詩話 唐女郎魚玄機詩 其二 温飛卿・・・ 森鴎外 「魚玄機」
出典:青空文庫