・・・ こゝ半年ばかり、健二は、親爺と二人で豚飼いばかりに専心していた。荷車で餌を買いに行ったり、小屋の掃除をしたり、交尾期が来ると、掛け合わして仔豚を作ることを考えたり、毎日、そんなことで日を暮した。おかげで彼の身体にまで豚の臭いがしみこん・・・ 黒島伝治 「豚群」
・・・ 三人が百姓に専心して、その収穫が、どうしても、利子に追いつかなかった。このまゝで行けば、買った土地を、又、より安くで売り払って、借金をかえさなければならなくなるのはきまりきっていた。 もっと利子の安い勧業銀行へ人を頼んであたってみ・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・去勢されたような男にでもなれば僕は始めて一切の感覚的快楽をさけて、闘争への財政的扶助に専心できるのだ、と考えて、三日ばかり続けてP市の病院に通い、その伝染病舎の傍の泥溝の水を掬って飲んだものだそうだ。けれどもちょっと下痢をしただけで失敗さ、・・・ 太宰治 「葉」
・・・昔は将棋を試みた事もあり、また筆者などと一緒に昔の本郷座で川上、高田一座の芝居を見たこともありはしたが、中年以後から、あらゆる娯楽道楽を放棄して専心ただ学問にのみ没頭した。人には無闇に本を読んでも駄目だと云ってはいたが、実によく読書し、また・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・しかし私の知れる範囲内では、蓄音機レコードの製造工場へ聘せられて専心その改良に没頭している理学士は一人もないようである。もっともこれは別に蓄音機のみに関した事ではない。当然専門の理学士によってのみ初めてできうべき器械類が、そういう人の手によ・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・官直轄の諸学校を私立の体に改革せられたらば、その教員の輩はもとより無官の人民なれども、いずれも皆少小の時より学に志して、自身を研き他を教育するの技倆ある人物にして、日本国中、学問の社会においては、長者先進と称すべき者なるがゆえに、その人物に・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・これにてたいてい洋書を読む味も分り、字引を用い先進の人へ不審を聞けば、めいめい思々の書をも試みに読むべく、むつかしき書の講義を聞きても、ずいぶんその意味を解すべし。まずこれを独学の手始とす。かつまた会読は入社後三、四ヶ月にて始む。これにて大・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾新議」
・・・我々は、そこで、先進的なプロレタリアートとその指導党とが、どんな困難に出会い、どんな成功をよろこびつつ、社会主義の達成に努力しているかを、知らなければならない。 何の為にブルジョア国は結束して国際連盟までを動員し、ソヴェト同盟に向って世・・・ 宮本百合子 「若者の言葉(『新しきシベリアを横切る』)」
・・・強制献金のための村の衆の集りに出て、アジ・プロしようという機会そのものの積極的なとらえかたは、間違った方法によって失敗に帰したのだが、僕というプロレタリア作家は、手紙のこの部分になると、階級的先進分子としてオルグ的活動と作家的活動とを、完全・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・彼は、年こそ六十にもなっているが、インガの勤労者としての価値、及び解放された女がどうでなければならないかという一般の原理に対しては、いつも公平な立場で、社会的に理解し先進的な見解を失わない男である。「――彼女がどうだっていうんだ? 仕事・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
出典:青空文庫