・・・ この日に家康は翠色の装束をして、上壇に畳を二帖敷かせた上に、暈繝の錦の茵を重ねて着座した。使は下段に進んで、二度半の拝をして、右から左へ三人並んだ。上々官金僉知、朴僉知、喬僉知の三人はいずれも広縁に並んで拝をした。ここでは別に書類を捧・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
・・・また石畳の両側には、境内に住んでいる限りの僧俗が、ほとんど一人も残らず簇っている。これは討手の群れが門外で騒いだとき、内陣からも、庫裡からも、何事が起ったかと、怪しんで出て来たのである。 初め討手が門外から門をあけいと叫んだとき、あけて・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・だからここに茸の価値と言われるものは、この自己没入的な探求の体験の相続と繰り返しにほかならぬのであって、価値感という作用に対応する本質というごときものではない。茸の価値は茸の有り方であり、その有り方は茸を見いだす我々人間の存在の仕方にもとづ・・・ 和辻哲郎 「茸狩り」
出典:青空文庫