・・・ 親切な読者たちは、それがまあひどく馬鹿でもなく、見っともなくもない一人の青年か、壮年か、兎に角マスキュリン・ジェンダで話さるべき客と想像されはしまいか? それは幾分ロマンティックだ。まして、彼が私の崇拝者ででもあるというなら。あの辺の自然・・・ 宮本百合子 「田舎風なヒューモレスク」
・・・ その方が良人を失われた――而も御良人の年といえば、僅かに壮年の一歩を踏出された程の少壮である。――ここで夫人の受けられる悲歎、悲痛な恢復、新らしい生活への進展ということが、私にとって冷々淡々としておられる「ひとごと」ではなくなって来ま・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・ 壮年の粗硬と青年の純情さ、 二月二十五日 地面には、まだ昨日降ったばかりの雪が、厚く積って居る。が、空は柔かく滑らかな白雲を浮かべて晴れ渡って居た。 雲の消え入るようにやさしいすき間には、光った月と無数の星とがキラキラ・・・ 宮本百合子 「結婚問題に就て考慮する迄」
・・・はげしい前線の生活も経験して来た壮年の一部の作家たちが、戦後日本の錯雑した現実に面して、過去の私小説的なリアリズムの限界の内にとどまっているにたえないのは必然である。日本の社会現実を全面的にすくい上げようとして彼ら一部の作家たちは新しい投げ・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・時期に書かれたものであるし、古典的な権威として今日或る意味で価値ある文学上の存在をつづけている作家たち、例えば島崎藤村、徳田秋声、谷崎潤一郎、永井荷風、志賀直哉、武者小路実篤等は、いずれもこの年代に、壮年期の活動を示した人々であった。過去の・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・「今日においては『私』を決定する想念は個人主義的要素をいささかも含んでいないということが一つの特質として認められねばならぬ。」「作者の生活態度、人生観が作中の『私』に変貌しているかどうかということなぞということは結局どうでもいいことなのであ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・の公荘は、壮年に達したばかりの年齢で既に生一本な情熱に動かされる感情を喪失し、しかも周囲の感情生活の諸相は或る程度あるがまま悪意なく理解する物わかりよさを持ち、常識は常識と知って習俗にさからわぬ躾をもって現れている。「先生」と「代助」が時代・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・〔欄外に〕 昨年会ったときから見ると すっかり壮年的になっている。 三十四歳。○「夜店の大学を出たって平気ですよ」○「つよい一面によわい」「病気しませんねえ、相変らずコマコマしているが」 岩手の農・・・ 宮本百合子 「SISIDO」
・・・この愛についても例外的な境地に生きる女詩人が、今既にある峯に立っているその境地のなかで、そのような想念と情緒とをどのように展開し、すこやかに渾然と成熟させてゆくか。愛という字をつかわずに、人々の心に愛の火を点じてゆく芸術の奥義が、どんなにし・・・ 宮本百合子 「『静かなる愛』と『諸国の天女』」
・・・あくまで個人の性格や事情と公的なものと観念化されていた一つの想念とを対立させて、そこで敗れた人間性や良心の課題の範囲で扱われたことも、日本の知識人の歴史の性格を雄弁に語っていることであった。しかも、当時一般の心理は、このような歴史的文学の題・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
出典:青空文庫