・・・時には数百里も遠い大洋のまん中であばれている台風のために起こった波のうねりが、ここらの海岸まで寄せて来て、暴風雨の先ぶれをする事もあります。このような波の進んで行く速さは、波の峰から峰、あるいは谷から谷までの長さいわゆる「波の長さ」の長いほ・・・ 寺田寅彦 「夏の小半日」
・・・どちらかと言えば日本のように大陸の東側、大洋の西側の国は気候的に不利な条件にある。このことは朝鮮満州をそれと同緯度の西欧諸国と比べてみればわかると思う。ただ日本はその国土と隣接大陸との間にちょっとした海を隔てているおかげでシベリアの奥にある・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・中には遠く大洋を越えて西洋の光の都、南洋のヤシの葉蔭に運ばれる。その数々の線の一つずつには、線の両端に居る人間の過去現在未来の喜怒哀楽、義理人情の電流が脈々と流れている。何と驚くべき空間網ではないか。」 そういえば、それはそうであるが、・・・ 寺田寅彦 「年賀状」
・・・それはとにかく、あの運動遅鈍なみみずでさえ、同じ種族と考えられるものが、「現時の大洋」を越えてまでも広がっているという事実を一方に置いて考えてみる。もちろんこの蚯蚓の先祖と人間の先祖とどちらが古いかというような問題はあってもそれは別として、・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・その実験は未了でその結果は未成品に過ぎないが、それにもかかわらずその大要をしるしてみたいと思うのである。 実験を始める前に私はまず自分の過去の経験を捜してみた。 いつだったか、印刷工がストライキをやって東京じゅうの新聞が休んだ事があ・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・ 次には大洋の水量の恒久と関係して蒸発や土壌の滲透性が説かれている。 火山を人体の病気にたとえた後に、物の大きさの相対性に論及し、何物も全和に対しては無に等しいと宣言している。 また火山の生因として海水が地下に滲透し、それが噴火・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
・・・しかし大陸と大洋との気象活動中心の境界線にまたがる日本では、どうかすると一日の中に夏と冬とがひっくり返るようなことさえある。その上に大地震があり大火事がある。無常迅速は実にわが国の風土の特徴であるように私には思われる。 日本人の宗教や哲・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・ 根岸派の新俳句が流行し始めたのは丁度その時分の事で、わたくしは『日本』新聞に連載せられた子規の『俳諧大要』の切抜を帳面に張り込み、幾度となくこれを読み返して俳句を学んだ。 漢詩の作法は最初父に就いて学んだ。それから父の手紙を持って・・・ 永井荷風 「十六、七のころ」
・・・その時雑誌『太陽』の第一号をよんだ。誌上に誰やらの作った明治小説史と、紅葉山人の短篇小説『取舵』などの掲載せられていた事を記憶している。 二月になって、もとのように神田の或中学校へ通ったが、一週間たたぬ中またわるくなって、今度は三月の末・・・ 永井荷風 「十六、七のころ」
・・・これより朝日新聞社員として、筆を執って読者に見えんとする余が入社の辞に次いで、余の文芸に関する所信の大要を述べて、余の立脚地と抱負とを明かにするは、社員たる余の天下公衆に対する義務だろうと信ずる。 私はまだ演説ということをあまり・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
出典:青空文庫