・・・何故ならこれに答えるためには、その場合の事情の十全な認識、行為のあらゆる結果の十全なる予測が必要であるが、かかる知見は神ならぬ人間には存しないからだ。かかる意味で、道徳上絶対に妥当な意志決定はありあたわぬ。しかしおよそ道徳とは何か、道徳的な・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・まして日本の如き、その文明の実価はともかくも、西洋流の文明についてはすべて不案内なるこの人民に向い、高尚なる学校教場の知見を丸出しにして実地の用に適せしめんとするも、浮世のように行わるべからざるは明白なる時勢とも心付かずして、我が国人は教育・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」
・・・ この官員なり、また学者なり、永遠無窮、人民と交際を絶つの覚悟ならばすなわち可ならんといえども、いやしくも上流の知見を下流に及さんとするには、その入門の路をやすくして、帳合にも日本の縦の文字を用い、法を西洋にして体裁を日本にせんこと、一・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・「さる十月二十七日に石川検事が東京地検の三階の会議室で、検察事務官に対する刑事訴訟法の講義において次の如き三鷹事件に対する検事の方針がのべられている」とその内容を明かにした点である。「これは、裁判は証拠中心主義のものであって、公判において証・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・ ところが事件の十五日夜アリバイがはっきりしているために「やや焦燥の色濃い東京地検堀検事正、馬場次席検事は」「教唆罪もあり得る」と語っている。検事のこの言葉は「あり得る」あらゆる罪名をもって飯田、山本両氏を犯人にしようとしているような感・・・ 宮本百合子 「犯人」
出典:青空文庫