・・・その私の旅行というのは、人が時空と因果の外に飛翔し得る唯一の瞬間、即ちあの夢と現実との境界線を巧みに利用し、主観の構成する自由な世界に遊ぶのである。と言ってしまえば、もはやこの上、私の秘密について多く語る必要はないであろう。ただ私の場合は、・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・を提起することを得と記して、一 配偶者カ重婚ヲ為シタルトキ二 妻カ姦通ヲ為シタルトキ三 夫カ姦淫罪ニ因リテ刑ニ処セラレタルトキ四 配偶者カ偽造、賄賂、猥褻、窃盗、強盗、詐欺取財、受寄物費消、贓物ニ関スル罪若クハ刑法第百七十五・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・彼の涙と苦しい笑いとひそめられた憤の震える調子は、アメリカの諷刺作家であったマーク・トゥウエンの作品などと全く異った悲傷な諷刺をつくり出している。マーク・トゥウエンの諷刺は、その基調に何と云っても辛酸をなめつくした後に、新興のアメリカ社会で・・・ 宮本百合子 「音楽の民族性と諷刺」
・・・もう一人は、時に意表に出たり、失敗したりもするかもしれないが、この人物のすることならよしんば失敗であったにしろ、決して卑劣卑小な動機から行動して失敗したりすることはあり得ない人物と思われているとする。かけられている信頼の度は二人のうちどちら・・・ 宮本百合子 「女の歴史」
・・・書かれた人生の色彩濃い物語りであり、同時によしや現代がいかようであろうとも、そこを生きる我々は、歴史の明暗の全面に全心をもってふれ、希望をまもり、生きぬくことで悲傷さえも人類の宝となし得る人間の豊富さに達したいという切な願いを覚えさせる本な・・・ 宮本百合子 「現代の心をこめて」
・・・階級性ぬきのものとしようとしてついに能動精神というモットーにおち、もう一段の悪情勢で、日本の文学がほとんどまったく侵略戦争のローラーにひしがれたということを、悲傷をもって経験している。プロレタリア文学の運動がはじまったころ、文学の純粋性を固・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・人間の裡に在るべき叡智のよりよき、より自由なる発動の為に、飛翔の為に、其の機会を多数に、多種に拡張し保護する権能が要求されるのでございます。私共は其の道程にのみ終始するべきではございません。使用すべき権能に使用されてはなりません。如何程鋭利・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・麗わしい晩春の日とともに軽々と高く飛翔した私の心は今 水のように地下に滲み入り生えようとする作品の根を潤おす。 *わが芸術のことを思いその孤独さを思うと私は 朗らかな天を仰がずには居られな・・・ 宮本百合子 「初夏(一九二二年)」
・・・』小倉金之助さんの、『家計の数学』山の好きな方に、チンダル『アルプスの旅より』又は『アルプスの氷河』など興味あるでしょうし、女の活動面が新しく展かれてゆく一つの姿としてアメリカのイヤハート夫人『最後の飛翔』も心にのこる本です。 読書でも・・・ 宮本百合子 「女性の生活態度」
・・・ナチス・ドイツは、女性の歎きと訴え、人民全般の悲傷の思いをふみにじって、戦争中、婦人が喪服をつけることを禁止した。ドイツの人々が、日に日に増大する黒衣の女性をみて、ナチス政権がしかけた戦争が、そのようにドイツ民族を殺しつつあることを知るのを・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
出典:青空文庫