・・・全国に十万人も熟練工が不足を告げているという事実は、今日の大問題とされているのである。処々の大工場、実務学校などで熟練工の養成、再教育をしている中には、専門学校出の若い婦人を新たに機械工業のための製図師として再教育している実例もある。臨時工・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・のこもったいたわり、饒舌でない思いやり、骨惜しみない扶け合い、そういうものが新しい結婚や家庭の生活にますますゆたかにされなければならず、そういう潤沢なあふれる心は、つまり今日の波濤の間で私たちの明日が不測であるからこそ、今日を精一杯によりよ・・・ 宮本百合子 「家庭創造の情熱」
・・・また三十になり、四十になると、智慧の不足が顔にあらわれて、昔美しかった人とは思われぬようになる。これとは反対に、顔貌には疵があっても、才人だと、交際しているうちに、その醜さが忘れられる。また年を取るにしたがって、才気が眉目をさえ美しくする。・・・ 森鴎外 「安井夫人」
・・・手前とこは株内や、株内が引きとるのに何の不足がある。」「お前こそ母屋やないか。母屋のなりして、株内へ廻すってことがあるかい。」「母屋や、阿呆たれよ、どこがどう母屋や。それを検べてから云うて来い。」「安次が母屋母屋云うてりゃ、それ・・・ 横光利一 「南北」
・・・いかに苦しんでも苦しみ足りるという事のないこの人生を、私はともすれば調子づいて軽々しく通って行く、そしてその凝視の不足は直ちに表現の力弱さとして私に報いて来るのである。私はもっとしっかりと大地を踏みしめて、あくまで浮かされることを恐れなくて・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫