・・・もし、ホンブレンさま、ここの所で私もちっとばかり延びたいと思いまする。どうかあなたさまのおみあしさきにでも一寸取りつかせて下さいませ。まあこういうお前のことばだったよ。」楢ノ木学士は手を叩く。「ははあ、わかった。ホンブレンさまと、一・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・人生の風波の間に、自分という可愛い小舟をホンローさせず、人間、女として自身の進路を見出してゆかなければならないと思います。 どうか皆さま、お元気に。よろこびが、あなたの前途にみちているように。苦しみと悲しみがあなたを囲んだとき、涙の・・・ 宮本百合子 「新しい卒業生の皆さんへ」
・・・マア、そんな事を云ってホンとうに娘らしくない」「恐ろしい、世の中に恐ろしい事なんかはありゃあしませんわ」「私は今までにないほどの男にかける呪を作ろうと思ってるんですもの、わら人形に針をうつ様なやにっこいんじゃあないのを……呪――好い・・・ 宮本百合子 「お女郎蜘蛛」
・・・ コスモスの花瓶にホンのすこしアスピリンをいれました。ぐったりしたから。利くかしら? もとスウィートピーにアスピリンをやったら、すっかり花が上を向いて紙細工のようになってうんざりしたことがあった。 この頃の小説の題は皆一凝りも二凝り・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・小松清氏というフランスにいたことのある人がホン訳したので、まだ二三頁をよんだにすぎませんがジャーナリスティックなものだし、又エキゾチシズムがつよい。フランスでエレンブルグが書いたものを思いおこさせました。私のバルザックについてかきたいところ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・○湯浅にホンヤクをたのむ パルプのこと十五円という ああ十五円でさようならか、と思った。 初め、調査部にひまな人がいたらやらせてくれないか、よし、それを宍が、五円ぐらい貰えると思い、じゃと湯にたのむ、月給が半年なくて丸ビルにいるつと・・・ 宮本百合子 「SISIDO」
・・・一人ごとともつかずにこんな事を云ったけれども御妙ちゃんは何とも云わないで白い足と手とかおだけ闇の中にホンノリとうき出さしてうつむき勝にあるいて居た。私は自分の家を通り越して御妙ちゃんを送りこんでから家にかえった――。こんな様なまるで恋中の様・・・ 宮本百合子 「ひな勇はん」
・・・ 向うの青々した山の裾まで、かるく、ゆれて、ホンノリとして見えるので、まるで初春の雲雀でも鳴いて居る時の様に思われる。 まだ三※日がすまないので、漁船は皆浜に上って居て、胴の間に船じるしの「のぼり」と松が立ててあるその下で、「あさぎ・・・ 宮本百合子 「冬の海」
・・・「あなたはチーホンですか?」「そうだよ」「ピョートルがやられたんです」「どこのピョートルだね」「長い、寺僧に似た男ですよ」「で?」「それだけです」 すると、その銅器工は、「ピョートルだの、寺僧だの何だのっ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・そもそも満蒙について、白木屋の展覧会はわたし達にどんなホントウのことを教えてくれるか。それを見たくて入ったわけなのです。 割引電車のように込むエレベータアにつめこまれ、五階でおろされる。紅白幕で飾った展覧会の入口から、マア、これはひどい・・・ 宮本百合子 「「モダン猿蟹合戦」」
出典:青空文庫