・・・ 十一、妄に遊蕩せざる事。 十二、視力の好き事。一しょに往来を歩いていると、遠い所の物は代りに見てくれる故、甚便利なり。 十三、絵や音楽にも趣味ある事。但しどちらも大してはわからざる如し。 十四、どこか若々しき所ある事。・・・ 芥川竜之介 「彼の長所十八」
・・・……勝手な極道とか、遊蕩とかで行留りになった男の、名は体のいい心中だが、死んで行く道連れにされて堪るものではない。――その上、一人身ではないそうだ。――ここへ来る途中で俄盲目の爺さんに逢って、おなじような目の悪い父親があると言って泣いたじゃ・・・ 泉鏡花 「みさごの鮨」
・・・ 二欧洲人の風俗習慣に就て、段々話を聞いて見ると、必ずしも敬服に価すべき良風許りでもない様なるが、さすがに優等民族じゃと羨しく思わるる点も多い、中にも吾々の殊に感嘆に堪えないのは、彼等が多大の興味を以て日常の食事を楽む・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・この頃の或る新聞に、沼南が流連して馴染の女が病気で臥ている枕頭にイツマデも附添って手厚く看護したという逸事が載っているが、沼南は心中の仕損いまでした遊蕩児であった。が、それほど情が濃やかだったので、同じ遊蕩児でも東家西家と花を摘んで転々する・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・あの厳しい顔に似合わず、(野暮粋とか渋いとかいう好みにも興味を持っていて相応に遊蕩もした。そういう方面の交際を全く嫌った私の生野暮を晒って、「遊蕩も少しはして見ないとホントウの人生が解らんものだ、一つ何処かイイ処へ案内しようじゃないか、」と・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・ 柳吉が遊蕩に使う金はかなりの額だったから、遊んだあくる日はさすがに彼も蒼くなって、盞も手にしないで、黙々と鍋の中を掻きまわしていた。が、四五日たつと、やはり、客の酒の燗をするばかりが能やないと言い出し、混ぜない方の酒をたっぷり銚子に入・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・ 元来志村は自分よりか歳も兄、級も一年上であったが、自分は学力優等というので自分のいる級と志村のいる級とを同時にやるべく校長から特別の処置をせられるので自然志村は自分の競争者となっていた。 然るに全校の人気、校長教員を始め何百の生徒・・・ 国木田独歩 「画の悲み」
一人の遊蕩の子を描写して在るゆえを以て、その小説を、デカダン小説と呼ぶのは、当るまいと思う。私は何時でも、謂わば、理想小説を書いて来たつもりなのである。 大まじめである。私は一種の理想主義者かも知れない。理想主義者は、・・・ 太宰治 「デカダン抗議」
・・・ただ科学の野辺に漂浪して名もない一輪の花を摘んではそのつつましい花冠の中に秘められた喜びを味わうために生涯を徒費しても惜しいと思わないような「遊蕩児」のために、この取止めもない想い出話が一つの道しるべともなれば仕合せである。・・・ 寺田寅彦 「科学に志す人へ」
・・・甚だしき遊蕩の沙汰は聞かれざれども、とかく物事の美大を悦び、衣服を美にし、器什を飾り、出るに車馬あり、居るに美宅あり。世間の交際を重んずるの名を以て、附合の機に乗ずれば一擲千金もまた愛しまず。官用にもせよ商用にもせよ、すべて戸外公共の事に忙・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
出典:青空文庫