・・・家内安全を保護する道徳の教えも、貴重は則ち貴重なれども、更に貴重なる公務には叶わぬものなりとて、既に公務に対して卑屈の習慣を養成し、次いで年齢に及びて人間社会の一人となり、戸外公共の事務を取扱うの身分となれば、生来の習慣忽ち活動し、公は以て・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・ 五月 日福沢諭吉 森文部大臣殿 倫理教科書の目的は、人の徳心を養成せんとするにあるか、ただしは人をして人心の働を知らしめんとするにあるか。けだし心理を知る者、必ずしも徳行の君子に非ず、徳行の君子、つ・・・ 福沢諭吉 「読倫理教科書」
・・・づくべからず、その忌諱には触るべからず、俗にいえば殿様旦那様の御機嫌は損ずべからずとして、上下尊卑の分を明らかにし、例の内行禁句の一事に至りては、言の端にもこれをいわずして、家内、目を以てするの家風を養成すること最も必要にして、この一策は取・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・大学は、英語を使用し、英語で使用される新しい大小の官僚、事務官を養成すればことたりるところという標準で組みかえられつつある。それに抵抗して日本の理性と学問、文化の自立を主張する動きは、全日本の規模で全学問の分野を包含した。生きる自由、学び、・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・の感覚を養成する教育でした。この場合の「奉公」は、公の一存在としての人民生活、市民生活への奉仕という近代民主主義の要素とはちがったものです。「公僕」という言葉が、民主日本になったからいわれはじめたけれど、その「公」というものが実感の中で「公・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・処々の大工場、実務学校などで熟練工の養成、再教育をしている中には、専門学校出の若い婦人を新たに機械工業のための製図師として再教育している実例もある。臨時工として種々の官営、民営工場に雇われ、工業部門に参加するようになって来た女の数はおびただ・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・なおかつ現在では自分の周囲におけるアメリカの子供の中からピオニイルを養成しているというのであるから、おそらく日本移民労働者の一人として、アメリカ共産党に組織されているのであろう。「亀のチャーリー」一篇を読んで最も強く印象されることは、亀・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・岩波文庫では「愛の妖精」という題で訳されているこの物語の、条件的ではあるが否めない全体の美しさ、不仕合わせを、そうでないものにかえてゆくファアデットの女らしく而も健気で人生的な気力とそれを語る作者の情熱の味いを知っている人々にとって、正直な・・・ 宮本百合子 「生産文学の問題」
・・・被告が、腹の下に両手をくみ合わせ、やや頭を左に傾けた下眼づかいに正座している当日の彼の写真は、全身の抑制された内向的な表情によっても、同じベンチに並んでいる他の被告たちの動的で、いくらか亢奮した反応が陽性にあらわれている様子とは、おのずから・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・ ジョルジュ・サンドの「愛の妖精」という小説を愛読したかたは決してすくなくないだろうと思う。プチト・ファデットが自分の特別に荒い境遇を変化させて自分の真情からの愛をも完うしてゆく勤勉で精気にみちた姿は、人生への知性というものは、ああいう・・・ 宮本百合子 「知性の開眼」
出典:青空文庫